世界史をつくった海賊 (ちくま新書)
今週のメルマガにも書いたことだが、イギリスが世界的な覇権を確立するにあたっては、海賊が重要な役割を果たした。「大航海時代」に多くの国が遠洋航海で貿易をしたのに対して、後発の小国だったイギリスは海賊を国家が雇うというイノベーションを生み出したのだ。

フランシス・ドレークに代表される海賊は、もとはバイキングなどと同じ「民間企業」だったが、エリザベス1世にその強盗の腕を見込まれて、王室海軍の副司令官になる。彼らのねらいは新大陸やアジアから財宝を積んで帰ってくる商船だが、向こうも警戒して艦隊が護衛する。当時、世界最強だったのはスペインの無敵艦隊だった。
戦力においてはイギリスはとてもかなわないので、船に火を放って相手の艦隊に突っ込ませる「火船攻撃」を編み出した。これは日本の特攻隊とは違って、自分の船に放火したあと船員は海に飛び込み、火だるまになった船だけが風に乗って敵艦隊に突入して炎上させる――こうした「自爆テロ」を繰り返し、最終的にはイギリスは無敵艦隊を全滅させて大西洋の制海権を握った。

こうして海賊は正式のイギリス艦隊に格上げされ、イギリスは新大陸から砂糖やタバコなどを輸入し、織物や銃などをアフリカに輸出して奴隷を調達し、その奴隷を新大陸で酷使して砂糖などをつくらせるという三角貿易で巨額の利益を上げた。ドレークやホーキンズなど大物の海賊は爵位を与えられ、国家的英雄になった。

しかしイギリスが完全に制海権を確立すると、こうした海賊はじゃま者になり、正式の艦隊から追放された。今やゲリラ的な海賊ではなく正規軍が主力になり、イギリスは「航海法」を制定して東インド会社などの貿易航路の独占を守る側に回る。

こうして17世紀までにイギリスが行なった強盗にも等しい「貿易」によって大規模な本源的蓄積が行なわれ、18世紀から始まる「産業革命」の資本になった。資本主義は大塚史学のいうような独立生産者の貯めた小銭ではなく、「前期的資本」の中でも最悪の国家的な海賊行為によって生まれたのである。