PKOというのを覚えている人がいるだろうか。国連の平和維持活動のことではない。90年代に株価バブルが崩壊したとき、郵貯の資金で株価の買い支えをやったことをPrice Keeping Operationと呼んだのだ。結果的には、年金福祉事業団は数兆円の評価損を出して解散した。

山崎元氏も指摘するように、黒田日銀総裁の「異次元緩和」にはPKOのような株価操作のにおいを感じる。彼自身が「[ETFの]リスクプレミアムにはまだまだ圧縮できる余地がある」と言ったという。

これはちょっとわかりにくいが、たとえば国債のようなリスクフリー資産の金利が0.6%のとき、日経平均の益回り(PERの逆数)が5%だと、リスクプレミアムは4.4%になる。このプレミアムを、たとえば2%圧縮すると2.4%になるので、益回りは3%、つまりPERは33倍まで上がっていいということになる。これは日経平均でいうと2万2000円ぐらいだ。

黒田氏が「リスクプレミアムを圧縮する」というのは「PERがもっと上がってもETFを買う」という意味で、「日銀はどんどん株価を上げる」というPKO宣言とも解釈できる。これは岩田副総裁の「株価を上げてインフレにする」という「資産インフレ理論」と符合するので、岩田氏が黒田氏に進言したのだろう。

黒田氏は官僚には珍しい理論派で、オクスフォード大学に留学したときは、ハロッドやヒックスにケインズ理論を学んだという。マネタリーベースを倍増して金利や為替や株価を全面的に統制しようという彼の手法は、ケインズ主義を超えた一種の国家社会主義であり、安倍首相とは相性がいいだろうが21世紀に通じるとは思えない。

岩田氏や浜田宏一氏の依拠している本多・黒木・立花が実証したように、量的緩和の時期の株高は、結局インフレにも成長にも結びつかなかった。80年代と同じく、成長率が上がらないのに株価だけ上がっても、黒田PKOは株バブルが崩壊したら悲惨な結果になるおそれが強い。