がん保険のカラクリ (文春新書)著者(岩瀬大輔氏)は、ライフネット生命の創業者で副社長である。前著『生命保険のカラクリ』は、従来の生命保険が「マイナスの貯蓄商品」であることを暴露して、業界に衝撃を与えた。本書はその続きとして、医療保険を扱ったものだ。

実はがん保険は、日本と韓国・台湾以外にはほとんどない特殊な保険である。その歴史はアフラック(アメリカンファミリー生命保険)の歴史であり、アフラックの日本での利益は全世界の8割を占める。それだけ日本人に「がん保険」という金融商品がアピールしたのだろう。

しかし、がん治療だけを対象にする保険というのは奇妙な商品である。それはかつてのようにがんが不治の病で莫大な医療費がかかるというイメージに依存しているのだろうが、今ではがんの5年生存率は56.9%。日本人の最大の死因なので、よほど特殊な医療でない限り公的医療保険でカバーされている。つまり在来型のがん保険は、ほとんどの人にとっては必要ないのだ。

一般の医療保険にも、あやしいものが多い。もともと保険というのは、火災保険をみればわかるように、めったに起こらないが起こったとき多大なコストがかかる事象のリスクをヘッジするものだから、1泊2日の入院費を対象にした医療保険なんて意味がない。日本の医療保険は、掛け金が年間約5兆円なのに対して給付金は約1兆円しかないボッタクリである。普通の病気への備えとしては、貯金で十分だ。

もっとひどいボッタクリは公的医療保険だ。たとえば組合健保と共済組合の保険料収入は8.8兆円だが、加入者への給付は4.5兆円で、後期高齢者医療保険と介護保険に4.3兆円も流用されている。国民健保も、11.8兆円の保険料の3割が高齢者医療に流用されている。逆に高齢者医療の保険料は2.2兆円なのに、給付は15.9兆円もある。日本は年金のみならず医療保険でも、異常な老人天国なのだ。

ただ本書のテーマは民間保険なので、公的保険の説明は少ない。後半がまた生命保険の話になったりして、本としては焦点が定まらない。むしろ民間保険と公的保険の両方を合わせて、医療保険によって加入者がいかに食い物にされているかをくわしく明らかにしたほうがよかったのではないか。