3月末で切れるモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)の代わりに、自民党がいろいろな救済措置を講じている。片山さつき氏によれば、次の図のように至れり尽くせりだ。


これは政治的には当然だろうが、政府の「資金繰り支援」や銀行への行政指導はアベノミクスの効果を台なしにする。それはソフトな予算制約となってゾンビ企業を延命し、労働生産性を低下させるからだ。今週のメルマガから紹介しておこう。

サンクコストの錯覚はよく見られるもので、先日は日本経営哲学会の前会長の菊澤研宗氏まで錯覚していて驚きました。「新しい装備を買うと古い装備がサンクコストになるから日本軍は合理的に古い設備を使い続けた」という誤解にもとづいて1冊の本を書いているのだから困ったものです。

ただ彼のいいたいことは、わからなくもない。現実には、サンクコストが意思決定に影響を及ぼすことが多いからです。それを理論的に整理したのがDewatripont-Maskinの有名な論文です。簡単な例をあげると、こういう状況です:
あるSI業者に100万円でシステム構築を頼み、前金で払った。ほとんど完成した段階で、業者が「仕様の変更が多かったので、あと50万円ないと完成できない」といってきた。「それは約束が違う」というと「では他の業者に頼んでくれ」という。他の業者に頼むと120万円かかるので、あと50万円ですむなら、この業者に頼まざるをえない。
みなさんの会社にもよくあると思いますが、この意思決定は事後的には合理的です。すでに払った100万円は取り返せないので、50万円ですむなら払ったほうがいい。しかし事前に150万円かかるとわかっていれば、120万円でできる別の業者に頼むべきでした。

このようにサンクコストが大きいとき、それを人質にとって追加投資を要求するモラルハザードが起こりやすく、それに応じていると採算がどんどん悪化します。これがソフトな予算制約(SBC)と呼ばれる現象で、社会主義経済では広範に発生し、その崩壊の原因になったといわれています。

日本で1990年代に発生したのも、同じようなSBCです。莫大な債務を抱えた不動産業者を清算すると、貸し倒れ債権が損失になりますが、追い貸しして金利を取れば、当期の損失は避けられます。しかし結果的には、SBCによって不良債権が雪ダルマ式にふくらんだわけです。

これが今も日本にゾンビ企業が残っている原因で、それをさらに悪化させたのがモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)です。さいわい景況感もよくなってきたので、3月末でモラトリアム法を廃止し、代替措置もやめるべきです。日本経済もモラトリアムを卒業し、サンクコストを清算して再出発するときです。


サンクコストのような錯覚は行動経済学では広く見られ、「メンタル・アカウンティング」と呼ばれる重要な現象である。くわしくはメルマガで。