きのうアゴラでも書いたが、日本には19世紀の貨幣数量説をいまだに信じている人がいるようだ。金融政策の効果というのは、私の学生のころから経済学でもっとも激しい論争の行なわれた分野で、「ケインジアン対マネタリスト」という色分けもこれに由来する。学問的にはほぼ決着のついた問題だが、かなりテクニカルなので証券アナリストには理解できないのかもしれない。そこでこういう人も読んでおくべき基本的な文献をリストアップしておこう。
- マンキュー『マクロ経済学』:マクロ動学をむずかしい数学を使わないで解説した教科書。学部むけ。
- 齊藤誠ほか『マクロ経済学』:流動性の罠など、日本の状況も解説したニューケインジアンの教科書。学部むけ。
- Gali, Monetary Policy, Inflation, and the Business Cycle: 動学的一般均衡理論(DSGE)の教科書。大学院むけだが、微分方程式のわかる人にはこれが一番わかりやすいと思う。
- Mankiw, "The Macroeconomist as Scientist and Engineer": フリードマンから新ケインズ派までの流れを要領よくまとめたサーベイ。
- 植田和男『ゼロ金利との闘い』:いま安倍政権やリフレ派の騒いでいる話は、ここでほとんどすべて論じられている。
- 白川方明『現代の金融政策』:白川総裁が京大に勤務していたとき書いた本。マクロ政策より銀行監督政策に重点が置かれている。
- 岩田規久男『デフレと超円高』:リフレ派の教祖の本。実は単純な貨幣数量説を否定し、「マネタリーベースを増やすだけではインフレにならない」と認めている。どうすればインフレになるのかは、よくわからない。
- Woodford, "Methods of Policy Accommodation at the Interest-Rate Lower Bound": ゼロ金利における金融政策の有効性についての包括的なサーベイ。いくらマネタリーベースを増やしてもだめだと断定し、財政政策との併用をすすめている。
- 吉川洋『デフレーション』:名目賃金の低下がデフレの最大の原因だとするもの。日本に固有の原因については、これがもっとも納得できる説明。
- 翁邦雄『金融政策のフロンティア』:いわゆる「日銀理論」の集大成。非伝統的金融政策について詳細に検討している。