アゴラの記事の補足。竹中氏のいう「期待が自己実現」するための条件は、理論的にははっきりしている(テクニカル)。
安倍さんがデフレ脱却のために日銀に強く働きかけると発言しただけで、人々の期待を少し動かして、株価や為替相場にもいくらかの影響を及ぼしている。これを決定的なものにするためには、政府と日銀の間でしっかりとした枠組みをつくらなければならない。具体的には、政府と日銀の間でアコードを結ぶ。政府はしっかりとした構造改革、成長戦略、財政政策を駆使して高い成長期待を実現し、需給ギャップをゼロにする
つまり現状が潜在GDPからはずれた不均衡状態(複数均衡)で、リフレによって均衡状態(潜在GDP)に戻るなら、それ以上は何もしなくても均衡状態が続く。DSGEで想定している潜在GDPとは、すべての価格が伸縮的に動いた場合に実現される自然水準なので、そのまま放置しても何も起こらない。これがリフレ派のよくいう「需給ギャップを解消するだけで3%成長できる」という話だ。

問題は現状が自然水準からはずれているかどうかだが、これは非常にむずかしい問題だ。内閣府の推定しているGDPギャップは図のように昨年7~9月で-3.1%だが、その基準となる潜在GDPの定義は「経済の過去のトレンドからみて平均的な水準で生産要素を投入した時に実現可能なGDP」であり、DSGEで想定している自然水準とはまったく異なる。


以前の記事でも書いたように、内閣府の定義では需要ショックがGDPギャップに含まれ、また白川総裁のいうように老朽化した遊休設備が多いときはGDPギャップが大きく出るバイアスがある。そもそも価格がそれ以上は動かない自然水準というのは理論的な概念で、本当に存在するかどうかもわからない。

だから現実の経済が自然水準に近いかどうかは、そのふるまいで決めるしかない。この点では、10年以上にわたってコアCPI上昇率が±1%に収まっているのは、現状が自然水準に近いことを示唆している。これを無理やり2%のインフレにすることは、かえって均衡を攪乱するおそれが強い。

統計的なGDPギャップが残るもう一つの原因は、自然利子率がマイナスになる流動性の罠である。この状態で実質金利を自然利子率と一致させるには予想インフレ率を上げるしかないが、そのためには将来インフレが起こらなければならない。しかし流動性の罠では日銀がインフレを起こすことはできない・・・という悪循環に入ってしまう。

つまり期待(インフレ予想)を自己実現させるには、実際にインフレを起こす手段を日銀がもっていなければならないが、それは金融政策では不可能なのだ。これがWoodfordもサーベイしている現代のマクロ経済学の結論である。この状態で期待だけが先走ると、起こるのはバブルである。今のように実体経済が沈滞したまま資産インフレや資本逃避が起こるのは、日本経済にとって有害無益といわざるをえない。