中小企業のおじさんと話したとき、彼が「デフレのおかげで景気が悪い」というので、「なんでデフレだと景気が悪くなるんですか?」と質問したら、「だって値段が下がるじゃないですか」という。「でも原料の値段も下がってますよね」というと、「お客さんが買ってくれない」という。私が「それじゃデフレが不景気の原因じゃなくて、不景気がデフレの原因じゃないの?」というと、「同じことでしょ」という。

たぶん安倍総裁も、次のように錯覚しているのだと思う:
  1. 物価下落と不景気が同時に起こっている
  2. だからデフレは不景気の原因だ
  3. だからインフレにすれば景気がよくなる
これは藤井聡氏と同じで、相関関係と因果関係を混同し、名目と実質を区別しないで「物価が下がる」ことを「所得が減る」ことと混同しているのだ。しかし収入(名目所得)が1%下がって物価が1%下がったら実質所得は同じだ。

デフレを脱却したら、どういういいことがあるのだろうか。デフレの悪影響は、名目賃金や名目債務に固定性がある場合に一時的な貨幣錯覚で実質賃金や実質債務が増えて企業収益を圧迫することだ。しかし岩田規久男氏も示すように、実質賃金も実質債務も下がっているので、デフレ予想は織り込まれ、貨幣錯覚は起こっていない。

キャプチャしたがってインフレにしても景気はよくならない。実力で達成できる潜在GDPと現実のGDPの差をGDPギャップと呼び、これが景気の指標だが、図のようにGDPギャップ(赤線)の動きが内需デフレーター(物価指数)の動きにやや先行している。つまり不景気がデフレの原因で、その逆ではないのだ

この-3.1%のGDPギャップは、日本経済が不均衡状態にあることを示しているが、それをすべて金融政策で埋めることはできない。自然利子率がマイナスになっている限り、金利が均衡水準を上回る不均衡が是正できないからだ。このように低金利が続く原因は企業の貯蓄超過で、その原因は企業収益が低いことなので、必要なのは企業収益を上げて潜在成長率を高めることだ。

いうまでもなく、日銀が潜在成長率を上げることはできない。金融政策の役割は均衡状態(潜在成長率)からはずれたとき均衡に戻すことだけで、均衡を変えることはできないのだ。では、潜在成長率を上げるには何をすればいいのだろうか? それは複雑な問題なので、今週のメルマガで。