政府は駿河湾から日向灘に至る南海トラフを震源域とする最大級の地震が起きた場合、関東から九州・沖縄の30都府県で最大32万3000人が死亡、238万6000棟が全壊・焼失するという被害想定を公表した。冬の深夜に東海地方を中心に大津波が襲うケースで死者が最多になり、静岡県で10万9000人が死亡すると予想されている。

奇妙なのは、この中で中部電力浜岡原発の津波の高さが21mから19mに修正されたことだ。これは中部電力が建てている防波堤の高さが18mであることに配慮したものだろうが、浜岡ではすでに防水工事が完了しており、たとえ浸水しても福島第一のように全電源喪失という事態には至らない。万が一そういう事態になっても、福島事故と同規模であれば死者は出ない。

錯覚している人が多いが、日本で想定されている原発事故は地震・津波の2次災害である。原発が破壊されるような大地震では何万人も死ぬので、その中では原発事故はマイナーな災害である。それなのに1400億円もかけて原発だけの防災工事をしているのは費用対効果が見合わない。原発の停止によって昨年と今年で5兆円以上の富が失われるが、これによって日本国民が得るものは何もない。

他方、防災対策には莫大なコストがかかるが、今の財政事情では歳出を増やすことはむずかしい。それならすべての原発を稼働し、それで得られる収入の一部を電力会社が政府に寄付して防災対策に当ててはどうだろうか。これによって(死者ゼロの)原発事故のリスクは高まるが、32万人の死者はかなり削減できる。損得勘定は大幅にプラスだと思うのだが、どうだろうか。