原発パニックも沈静化し、ようやく科学的データで議論できるようになったのはいいことだが、いまだに反対派にはデータの扱いを知らない人が多い。先週のニコ生でデータを出して議論したのは田中優氏だけだったが、彼は「同じ線量でも内部被曝は外部被曝より恐い」と主張した。これは間違いである。
上の表は原子力百科事典によるものだが、世界平均2.4mSvの自然放射線のうち吸入が1.26mSv、食品摂取が0.29mSv、合計して自然放射線の65%が内部被曝である。特に大きいのはカリウム40(40K)で、体内で一定量に保たれているので、すべての人がつねに年間4000Bqを保持し、これによる被曝量は0.17mSvである。厚労省の決めた食品暫定規制値100Bqの40倍の放射線をすべての人が浴びているのだ。

福島の外部被曝線量が数mSvだと判明したため、「内部被曝は体内にずっと残るので外部被曝より恐い」というのが反原発派の最後の脅し文句になっているようだが、これは「1gの鉄は1gの紙より重い」というような錯覚だ。河野太郎氏もいうようにSvは人体への影響を示す測度であり、預託実効線量はその積算値なので、この数値が同じなら人体への影響は同じである。福島県の内部被曝は全員の預託実効線量が1mSv以下で、健康被害は出ない。

田中氏が持ち出すのはバンダジェフスキーやECRRのウェブサイトなどのあやしげな記事ばかりで、査読つき学会誌に出た論文は1本もない。私の知るかぎり、正式の学会誌に出た福島の被害に関する推定は、今のところHoeve-Jacobsonだけだ。この論文はLNT仮説を誤って適用し、被害を過大評価しているが、それでも今後50年間の死者は130人。Richterは「最悪の想定でも、原発で失われる余命は30年/TWhで石炭火力(138年)よりはるかに少ない。この論文は原発の安全性を証明した」とコメントしている。

問題はリスクをゼロにすることではなく、社会的コストを最小化することである。被災地をすべて1mSvまで除染するには数十兆円のコストがかかるが、それによって健康被害は減らない。政府は「ゼロリスク」を求める人々に迎合しないで、合理的な対策をとるべきだ。