昨夜は官邸前で反原発デモが盛り上がったらしい。こういう古典的な大衆運動は日本ではもう終わったと思っていたが、アメリカの"Occupy Wall Street"と同じように、ソーシャルメディアが大衆運動を活性化したのかもしれない。それは悪くないのだが、彼らの「大飯原発の再稼働阻止」という目的はナンセンスだ。

すでに運転許可が出て再稼働の作業は始まっているので、これを止めるには電気事業法にもとづく技術改善命令が必要で、デモは役に立たない。他の原発を動かすなという示威だとすれば、それはすでに5兆円に達している原発停止による損失をさらに拡大するだろう。つまりこれは日本をさらに貧しくしろというデモなのだ。

原発の健康リスクは火力より小さく、運転を止めることで安全にもならない。このまま原発を止め続けると、数年で東電以外の電力会社も債務超過になる。それを避けるためには、コストを利用者に転嫁するしかない。それは消費税率にすると2%以上の「増税」になるだろう。彼らは本質的な問題を取り違えているのだ。

日本がいま直面している最大の危機は、明日は今日より貧しくなるということである。労働人口は毎年1%ずつ減り、政府債務は50兆円ずつ増えてゆく。昨年の名目GDPは20年前と同じだったが、これから名目成長率はマイナスに転じるかもしれない。そしてきょう生まれる赤ん坊の生涯の可処分所得は、きょう退職する老人より1億円以上も少なくなる。

夏の停電にそなえて、製造業は海外シフトを急いでいる。家電も半導体も巨額の赤字を出し、もうサムスンやファーウェイの背中も見えない。メーカーに勤務するビジネスマンと話すと「いつまで日本にいられるか」が話題になる。そんな時代に「エネルギー供給を止めろ」と訴えるデモは、豊かだった日本の最後の愚かなエピソードとして記憶されるだろう。