財務省のマインドコントロール消費税の増税法案が閣議決定され、いよいよ国会で審議が始まるが、永田町で行なわれている増税論議は、経済学的には理解不能なトンデモの類だ。その集大成が本書で、江田憲司氏(みんなの党幹事長)は次のような財務省のマインドコントロールを否定する。
  1. 国債は子どもや孫たちへのつけ回しではない!
  2. 国家の財政を家計にたとえるのは大間違い
  3. 「国の借金はGDPの2倍」? それがどうした!
  4. デフレ下で増税しても、税収は上がらない
1はなつかしい「内国債は将来の負担にならない」という新正統派の議論で、一種のトートロジーである。税金を取られるのも国債を買うのも政府への資金移動という点で同じだと定義すれば国債も税金も同じだが、こんな話は全国民が永遠に生きるときしか成り立たない。そもそも将来の増税が負担増ではないのなら、現在の増税も負担増ではないのだから、みんなの党が増税に反対するのは矛盾している。

2は、政府には徴税権があるので家計とは違っていくら借金してもいいという話だが、国債を買うのは江田氏ではなくマーケットである。5%の税率を10%にするのに15年かかった国で、それを20%以上にできるのだろうか。それができないと邦銀が判断すれば、彼らは国債を売る。江田氏が「それはマインドコントロールだ!」と止めても、暴落は止まらない。そしてメガバンクは逃げ始めている。

3は「政府は金融資産もあるので純債務は大したことない」という話で、みんなの党の公式見解によれば、政府の純債務は300兆円しかないらしい。この計算では年金基金の積立200兆円を資産に計上しているが、実際には日本の公的年金は500兆円以上の債務超過になっていて、それを加えると純債務でみても1100兆円を超える。

4は1997年の消費税増税で税収が下がったという話だが、これは間違いである。以前の記事でも書いたように、増税前にGDPが上がって直後に下がったので、増税は景気にほぼ中立で、消費税収は上がっている。所得税収や法人税収が名目ベースで下がったのは日本の名目成長率が低いからで、消費税率2%ぐらいの影響が15年も続くはずがない。

・・・といった陳腐な話で、大学1年生の春学期の試験で間違いさがしに使えるだろう。そして彼がみんなの党の「成長戦略」として推奨するのは、名目4%成長のターゲティング政策だ。目標を立てるだけで成長するなら、誰も苦労しない。日銀が無限に資産を購入すれば人為的にインフレにすることはできるが、長期金利が暴騰して邦銀は破綻するだろう。

不可解なのは、こんな幼稚な理屈を江田氏が本気で信じているのだとすれば、誰にマインドコントロールされているのかということだ。同じような間違いだらけの話をしている高橋洋一氏が情報源だろうが、みんなの党は彼のトンデモ経済学と心中する気なのか。耳学問で恥ずかしい政策提言をする前に、普通の経済学者の意見を聞いてはどうか。