先日のサンクコストについての記事は、専門家向けに書いたのでわかりにくかったようだ。これは初歩的な常識だが、ほとんどの人が理解していないので、改めて説明しておこう。
サンクコスト(埋没費用)とは、過去に支出して現在の行動で変更できないコストのことである。たとえば高い料金を払ってオペラを見たらつまらなかったとき、「5万円も払ったんだから最後まで見よう」と辛抱するのは不合理だ。チケット代はサンクコストなので無視し、将来の利益だけを考えて見るのをやめるべきだ。
サンクコストは、ビジネスでも重要な問題である。たとえばA社がシステム開発をB社に1億円で発注し、完成直前になってB社が「予想以上に手間がかかったので、あと5000万円ほしい」と再交渉したとしよう。これを断ると他の業者で開発をやり直すのに1億円かかるとすると、A社は追加投資するしかない。
このようにサンクコストが大きいときは、プロジェクトの途中で約束を破るホールドアップ問題が起こりやすい。それが多発すると取引は混乱し、企業は交渉問題のリスクを恐れて過少投資が起こる。それを防ぐメカニズムが、資本の所有権である。
A社がB社を買収して垂直統合すると、BはA社の従業員になるので、再交渉したら解雇すればよい。つまり資本家が資本の所有権にもとづいて命令し、再交渉を防ぐことが資本主義の本質的な機能である。このメカニズムを分析して最適な「権力の配分」を考えるのが、ハートの所有権理論だ。
これに対して日本の企業は長期的関係で協力を維持し、裏切り者は「村」から追放する会員権で再交渉を防ぐ。これは長期的関係が安定しているときは効率的だが、状況が急速に変化する場合には裏切りが有利になって長期的関係が崩壊するので、所有権レジームが有利になる。いま日本の企業が直面している問題は、こうしたレジーム・チェンジであり、技術開発や営業努力で解決することはできない――というのが拙著のメッセージだ。
このようにサンクコストは単純な概念だが、資本主義の制度設計にかかわる大きな問題だ。アゴラ経済塾では、このように初歩的な概念を考える中で「経済学の考え方」を日常生活やビジネスに応用するトレーニングをしたい。
サンクコストは、ビジネスでも重要な問題である。たとえばA社がシステム開発をB社に1億円で発注し、完成直前になってB社が「予想以上に手間がかかったので、あと5000万円ほしい」と再交渉したとしよう。これを断ると他の業者で開発をやり直すのに1億円かかるとすると、A社は追加投資するしかない。
このようにサンクコストが大きいときは、プロジェクトの途中で約束を破るホールドアップ問題が起こりやすい。それが多発すると取引は混乱し、企業は交渉問題のリスクを恐れて過少投資が起こる。それを防ぐメカニズムが、資本の所有権である。
A社がB社を買収して垂直統合すると、BはA社の従業員になるので、再交渉したら解雇すればよい。つまり資本家が資本の所有権にもとづいて命令し、再交渉を防ぐことが資本主義の本質的な機能である。このメカニズムを分析して最適な「権力の配分」を考えるのが、ハートの所有権理論だ。
これに対して日本の企業は長期的関係で協力を維持し、裏切り者は「村」から追放する会員権で再交渉を防ぐ。これは長期的関係が安定しているときは効率的だが、状況が急速に変化する場合には裏切りが有利になって長期的関係が崩壊するので、所有権レジームが有利になる。いま日本の企業が直面している問題は、こうしたレジーム・チェンジであり、技術開発や営業努力で解決することはできない――というのが拙著のメッセージだ。
このようにサンクコストは単純な概念だが、資本主義の制度設計にかかわる大きな問題だ。アゴラ経済塾では、このように初歩的な概念を考える中で「経済学の考え方」を日常生活やビジネスに応用するトレーニングをしたい。


