きのうのニコ生アゴラのテーマは「放射能」。高田純氏の現地調査による報告が中心だった。彼の結論は「福島で健康被害は出ない」。これは中川恵一氏の結論とも一致し、事故後に開かれた二つの放射線に関する学会でも同じ結論が出ている。福島県の健康管理調査の結果も同じだ。

いまだに「内部被曝が恐い」という都市伝説があるが、高田氏が実測した結果でも、内部被曝は生涯線量で最大数mSv。これも福島県の調査と同じだ。食物によって摂取する放射性物質も無視できる程度であり、松田氏は「4月から規制が500Bq/kgから100Bq/kgに強化されるのは福島県の農業被害を拡大する」と批判していた。「命は金に代えられない」という類の話も、今回は命に別状はないのだから問題にならない。

コメントは3万以上つき、「原発推進派の話は信用できない」という意見もあったが、松田裕之氏は「私は原発に反対だが、今回の事故では健康被害の心配はない。それより過剰避難や農産物の出荷停止による二次災害が問題だ」と明言した。原発に賛成か反対かという価値判断と、事故でどういう健康被害が出るかという事実判断をわけて考えないと混乱する。

いま緊急に重要なのは、原発の是非論や発送電分離などの問題ではなく、すでに起こった事故の被害を最小化することだ。チェルノブイリ事故で確認された死者は60人前後だが、30万人が強制退去を強いられ、20万人が家を失い、1250人が自殺した。福島でも、高田氏の調べた限りでも3人の自殺者が出ている。被災地の農家は全財産を失い、家畜も死亡した。政府の「収束宣言」は批判を浴びたが、そういう手続きを踏まないと被災者をいつまでも帰宅させることができない、と澤昭裕氏は政府の対応を求めた。

「放射能は恐い」と恐怖をあおったマスコミも、事実がわかってトーンダウンしてきた。「危険厨」のヒーローだった武田邦彦氏もホルミシス仮説を認め、「年5mSvまでは放射線を浴びたほうが健康になる」と言い出した。残るのは「科学的な根拠はないが、よくわからないから恐い」という安富歩氏のような被害妄想だけだが、これも半減期は1年ぐらいだから、そのうち消滅するだろう。

おととい田原総一朗氏とも話したことだが、今回の事故で原発の新規立地は向こう10年ぐらい不可能になったと思われるので、原発推進か否かという論争には意味がない。それとは切り離して事故の影響を客観的に評価し、健康に影響はないという事実を政府が説明するリスク・コミュニケーションが重要だ。ただ政府が信用されていないことがその障害になっているので、科学者がもっと発言する必要がある。GEPRでは、科学者からの投稿を募集している。