いろいろ話題になっている橋下徹市長と山口二郎教授の討論がネットに残っていたので見た。おもしろい。


ひとことで言うと、山口氏はサンドバッグ状態である。それもグローブを装着して身構えているボクサーの前に顔を突き出して「殴ってください」と言ったようなものだ。1時間近い番組の中で、橋下氏が大阪都構想や教育基本条例を大々的に宣伝したのに対して、山口氏が言ったことは「選挙で勝ったからといって正しいとは限らない」といった超原則論だけ。

テレビの討論番組が、これほど一方的になるのは珍しい。普通は、山口氏のような人は出てこない。橋下氏の政策の中身をほとんど知らないで、「競争原理はよくない」といった抽象論だけで批判できると思っていたのだろうか。私も彼の本を読んであきれたことがあるが、北大グループはいまだに絶対平等主義や一国平和主義などの古い話を壊れたレコードみたいに繰り返している。

橋下氏の原発についての発言は私も批判したことがあるが、彼がすぐにツイッターで答えて驚いた。大阪府顧問になった古賀茂明氏も「仕事がメールだけで進む。すごいスピード感です」と驚いていたが、ポピュリズムに傾斜する危険もはらむ。大阪都構想についても、特別区に市のような権限を与えたら行政費用はかえって増えるのではないかなど、実務的な批判もあるが、山口氏はこういう具体的な批判を何もしないのだから話にならない。

山口氏や中島岳志氏や内田樹氏が「ハシズム」を批判しているのはおもしろい。彼らは私もブログで批判したように、変化を拒む社民イデオロギーにいまだに呪縛されているからだ。彼らは橋下氏を「新自由主義」と見て攻撃しているのだが、よくも悪くも橋下氏にはそんなイデオロギーはない。彼は単に行政の非効率に怒っているだけだ。

特に大阪都構想と並んで教育委員会に目をつけたのは、いい着眼点だ。教育委はGHQのつくった「進駐軍遺制」で、教育行政を停滞させて日教組支配をもたらす元凶だからである。これも山口氏は「組合つぶし」と考えて殴り返そうとするのだが、橋下氏が実務的な問題点を具体的に指摘して反論するので空振りになってしまう。

橋下氏の動機はイデオロギーではなく、何も決まらない日本の政治への怒りだと思う。『もしフリ』も読んで、こうコメントしてくれた:
これ面白かったです。登場人物の僕はかなりイカれてましたが、まあそんな感じです。でもこんな大阪弁は使いません(笑)大阪独立、ほんとそれを目指します。
彼の敵は、日本を(政治でも経済でも)だめにしている過剰なコンセンサスである。それを冷戦時代の「新自由主義vs社民主義」といったフレーミングで理解して闘おうとしたのが、山口氏の敗因だ。彼は丸山眞男の弟子だが、岩波的な近代主義は北海道で「ガラパゴス化」して悲惨な末路をたどったようだ。