細かい話が続いて恐縮だが、放射線の影響を考える場合、何もかもごっちゃにして「わからないから恐い」と思考停止するのではなく、確定的影響と確率的影響をわけて考えることが重要である。
強い放射線による急性の確定的影響についての専門家の意見は一致している。次の図はチェルノブイリ事故で消火にたずさわった作業員の被曝量と死亡率の関係を示したものだ(十字の横の長さは放射線量の幅、縦の長さは統計誤差による死亡率の幅)。
チェルノブイリ事故の急性障害による死亡率(UNSCEAR)
事故では237人の作業員が強い放射線にさらされ、数週間で28人が急性放射線障害で死亡した。6000~10000mSvでは21人中20人が死亡し、4000~6000mSvでは21人中7人が死亡している。この分布を曲線で近似すると図のような曲線になり、2000mSv以下の低線量被曝のリスクはゼロである。つまり脱毛、皮膚障害、白内障などの急性障害には閾値がある。
意見がわかれているのは、被曝によって数十年後の発癌率が高まるかもしれないという慢性の確率的影響である。これについて1回200mSv以上で健康被害が出ることについては広く合意があるが、100mSv未満についても悲観派は、生涯線量として蓄積されて健康に対して消えない傷を残すと考える。
楽観派は、それは生物学的メカニズムとも疫学データとも矛盾すると批判する。1回あたり100mSvの被曝で健康被害が起こらないのだから、それより低い線量で合計100mSvになっても起こることは考えられない。放射線によるDNAの損傷は、一時的に集中して(細胞の自己修復能力を超えて)照射されて起こるので、問題は放射線量の瞬間的な最大値である。
したがって「毎時*μSvだから年間*mSv」とか「内部被曝の預託線量が生涯で*mSv」という計算には意味がない。福島のようなμSvの被曝で健康被害が起こったという記録は世界のどこにもないので、何回被曝しても障害は起こらない。チェルノブイリでは、作業員以外の住民の被曝量は20年間で平均31mSvだったが、今までに発癌率の増加は見られない。
「細胞の修復には時間がかかるので、復元するまでに損傷すると影響は蓄積する」という意見もあるが、1個の細胞のDNAは1年に約40回損傷し、細胞はそれを修復する機能をそなえているので、修復にかかる時間はたかだか1週間である。慎重に安全を見込むとしても、1ヶ月もあれば復元できるので、放射線基準を大幅に見直すべきだというのがアリソンの意見である。
チェルノブイリ事故の急性障害による死亡率(UNSCEAR)
事故では237人の作業員が強い放射線にさらされ、数週間で28人が急性放射線障害で死亡した。6000~10000mSvでは21人中20人が死亡し、4000~6000mSvでは21人中7人が死亡している。この分布を曲線で近似すると図のような曲線になり、2000mSv以下の低線量被曝のリスクはゼロである。つまり脱毛、皮膚障害、白内障などの急性障害には閾値がある。
意見がわかれているのは、被曝によって数十年後の発癌率が高まるかもしれないという慢性の確率的影響である。これについて1回200mSv以上で健康被害が出ることについては広く合意があるが、100mSv未満についても悲観派は、生涯線量として蓄積されて健康に対して消えない傷を残すと考える。
楽観派は、それは生物学的メカニズムとも疫学データとも矛盾すると批判する。1回あたり100mSvの被曝で健康被害が起こらないのだから、それより低い線量で合計100mSvになっても起こることは考えられない。放射線によるDNAの損傷は、一時的に集中して(細胞の自己修復能力を超えて)照射されて起こるので、問題は放射線量の瞬間的な最大値である。
したがって「毎時*μSvだから年間*mSv」とか「内部被曝の預託線量が生涯で*mSv」という計算には意味がない。福島のようなμSvの被曝で健康被害が起こったという記録は世界のどこにもないので、何回被曝しても障害は起こらない。チェルノブイリでは、作業員以外の住民の被曝量は20年間で平均31mSvだったが、今までに発癌率の増加は見られない。
「細胞の修復には時間がかかるので、復元するまでに損傷すると影響は蓄積する」という意見もあるが、1個の細胞のDNAは1年に約40回損傷し、細胞はそれを修復する機能をそなえているので、修復にかかる時間はたかだか1週間である。慎重に安全を見込むとしても、1ヶ月もあれば復元できるので、放射線基準を大幅に見直すべきだというのがアリソンの意見である。
複数回の慢性被曝に関しても、修復時間内の累積量に上限を設けるべきであり、修復時間は控えめに見積もって1ヶ月がいいだろう。[中略]修復時間と回復期の長さを考慮して、単回急性被曝の上限は100mSv、複数回慢性被曝は100mSv毎月にすべきだろう。これらの数値には2倍の誤差を認めていいが、いずれにせよ現行の規制値と比べれば数百分の一の緩和となる。(『放射能と理性』p.229)これは年間線量にすると1.2Sv、現在のICRP基準の1200倍である。「人命にかかわるものは安全率をかけるべきだ」という議論もあるが、これでも低線量被曝については大きな安全率がかかっている。ほとんどの実証研究で、1回10mSv以下の被曝による余剰癌死亡率の期待値はマイナスだからである。福島事故の被災者は、作業員を除いてすべてこの範囲に入るので、避難も除染も必要ない。