中村伊知哉さんのブログで思い出したが、今から10年前、経済産業研究所(RIETI)がスタートしたころは、青木昌彦所長と田中伸男副所長(前IEA事務局長)のもとで、中村さんや高橋洋一さん、安延申さん、泉田裕彦さん(新潟県知事)、岸本周平さん(衆議院議員)、村尾信尚さん(日テレキャスター)がいて、古賀茂明さんも創立メンバーだった。初代の研究部長は松井孝治さん(参議院議員)で、その次が原発問題で大活躍の澤昭裕さんという、とても霞ヶ関とは思えない「パンク」なメンバーがそろっていた。

しかしRIETIは、他の官庁からは「梁山泊」とか「伏魔殿」とか呼ばれて評判が悪かった。「霞ヶ関全体のご意見番」として独立行政法人としては初めてウェブサイトをつくり、コラムや論文で他省庁の政策を遠慮なく批判したからだ。私が総務省の地デジ計画を批判したときは、総務省がNHKに通報して、海老沢会長から名誉毀損で訴えるという内容証明の手紙をもらったこともある。

2003年に個人情報保護法が国会に提出されたときは、私と安延さんが呼びかけ人になって20人が反対のアピールを出したが、これを北畑隆生官房長がつぶそうとして私に懲戒処分を出した。これがRIETIが空中分解した原因と思われているようだが、そうではない。直接のきっかけは他の研究員の金銭問題で、これを口実にして北畑官房長と岡松理事長が創立メンバーをほとんど全員クビにしてしまった。

去年の11月に同窓会をやったら、みんな「あの時のRIETIを再建したい」と元気だった。GEPRはその試みの第一歩だが、日本ではアメリカのように大富豪が自分の考えを実現するためにNGOに大金を寄付するという習慣がないので、ブルッキングスのような常勤の研究員を雇う本格的なシンクタンクはむずかしい。そこで固定費や要員は最小限にし、契約ベースで研究して研究成果をウェブサイトで発表する仮想シンクタンクとして設立したわけだ。

民主党政権の掲げた「政治主導」は空振りに終わり、官僚も無能な政治家に頭に来ている。他方、経済学者の意見は、たとえば財政再建のためには社会保障の削減しかないという点でほぼ一致しているのに、与野党ともにまったくこれにはふれない。いくら研究の蓄積があっても、政治との間にデスバレーがあって、何も実現しない。

団塊世代が引退して高齢化が急速に進む2012年は、日本経済の崖っぷちである。残された時間は少ないのに、相変わらずバラマキ予算を続ける民主党政権には何も期待できない。政治主導などという幻想は捨てて、中村さんもいうように、かつてのRIETIにいたような改革派官僚と連携して「官僚主導」で霞ヶ関を変えるしかないと思う。

前回のBOOKセミナーでは田原総一朗さんとそういう話をしたが、18日の夕食会では皆さんとそういう話もしたい。