
血糖値が高くなったとき、医者は「甘いものをやめるのは意味がない。余分なカロリーが血糖になるので、カロリー摂取量を減らすことが大事だ」とよくいう。これが標準的な学説らしいが、本書は臨床的な経験から、むしろ糖分(炭水化物)の摂取を減らすことが糖尿病にもダイエットにも効果があるという。

人間の活動は基本的には、体脂肪に蓄積されたエネルギーを燃やして行なわれるが、血糖が増えるとエネルギー源として糖質を優先して使う。インシュリンの機能が衰えて血糖値が上がると、糖分でエネルギーが供給されるので、体脂肪が消費されないで蓄積される。これが肥満の原因だ、というのが著者の説である。
なぜ糖質を減らすことが体にいいのかについての説明がおもしろい。人類の数十万年の歴史の大部分は狩猟社会だったから、糖分を毎日たくさん摂取することはなかった。糖質の多い穀物を栽培して食うようになったのはたかだか1万年ぐらい前からの農耕社会で、遺伝子には組み込まれていない。だから人体はブドウ糖スパイクのような急激な糖分の増加に対応するメカニズムをもっていないのだ。
だから1日の摂取カロリーというストックを制限することより、糖質の増加率というフローを抑えることが大事だ。たとえば、ざるそばはダイエットによくてステーキや揚げ物は悪いと思われているが、逆である。上の図のようにざるそばの炭水化物はすぐ血糖値を上げるが、蛋白質や脂肪が吸収される速度は遅いので、血糖値にあまり影響しない。
医学的には疑問もあるようだが、世の中の怪しげなダイエットとは違って医学的な根拠があり、副作用もない。何よりいいのは、面倒なカロリー計算が必要ないことだ。気をつけるのは、飯やパンなどの主食や甘いものをとらないで、定食や丼物は飯をすべて残すことぐらい。酒も「糖質ゼロ」のビールなら、いくら飲んでもいい。
私が主食も少し食う「プチ糖質ダイエット」を3ヶ月ほどやってみた経験では、まぁまぁの効果とはいえる。これは糖尿病の人だけではなく、体脂肪の蓄積を防いで普通の人のダイエットにも効果があるので、「来年こそダイエットを」と決意している人は試してみてもいいかもしれない。