きのうのトコトン議論でちょっと驚いたのは、元外交官の孫崎氏までが「アメリカの関税は低いから、TPPで輸出は増えない」と繰り返し批判していたことだ。これが外務省の平均的な経済リテラシーだとすると、政治家だけではなく官僚にも教育が必要だろう。同じことばかり書くのも面倒なので、今までブログと「アゴラ」などに書いた記事をまとめておく。
- 自由貿易のメリットは輸出を増やすことではなく、消費者の利益を最大化することである。これは国際経済学の教科書の最初に書いてあることで、それを理解しないとすべてトンチンカンな話になる。
- いろいろ話題の中野剛志氏の話は、この根本問題を勘違いして、「TPPで輸出は増えないからメリットがない」とか「関税を撤廃して農産物の価格が下がったらデフレになる」とかいうナンセンス。論評する価値もない。
- 「貿易はWin-Winのないゼロサムゲームだ」と思い込んでいる内田樹氏の錯覚も、よくあるパターンだが、貿易はプラスサム・ゲームである。しかも自由貿易による消費者の利益は生産者の損失より必ず大きい。
- 非関税障壁という言葉を今ごろ初めて知って騒いでいる手合いもいるようだが、世界一多い日本の非関税障壁を守れという話は、世界のどこにも通用しない。ISD条項なんて、FTAやEPAには必ずついているものだ。司法の「ホームバイアス」が隠れた非関税障壁なので、これに異議を唱える制度がないと自由化が機能しない。
- 農業は産業としてはマイナーだが、国民生活にとっては重要だ。しかし、よくも悪くも自由化の影響は少ない。「カロリーベース」の食料自給率を守るなんてナンセンスで、むしろ野菜や果物など低カロリーで付加価値の高い作物にシフトして自給率を下げるべきだ。
- 農業自由化は経済問題ではなく、政治問題である。この騒ぎを仕掛けている黒幕は農水省だ。それは彼らの国家貿易などの農業利権を脅かすからだ。東谷暁氏は「農協の利権を守るためにTPPに反対する」と公言し、宇沢弘文氏も農協に利用されている。
- 本質的な問題は、農業保護でも貿易自由化でもなく、直接投資の拡大による経済統合である。自由貿易圏には問題もあるが、大局的にはメリットのほうが多い。それがブロック経済になりかねないというリスクはあるが、鎖国とどっちがいいのかという比較の問題である。
- 日本の産業にとっては、TPPより円高の影響のほうが大きい。「空洞化」は避けられないし、避けるべきでもない。むしろ円の高いうちに直接投資を拡大する戦略を考えるべきだ。
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