きのうの「トコトン議論2~TPP問題を考える~」は、予想以上の盛り上がりで3時間に及んだ。しかし大部分は、農業保護やら非関税障壁についての被害妄想の話ばかりで、2時間半ぐらいたってからの田村耕太郎氏の「なんで今ごろこんな議論してるんだ」というコメントがもっとも的確だった。おっしゃる通り、巷で議論されている問題のほとんどは、経済学的にはtrivialな非問題である。
服部信司氏は「関税を下げたら農業が壊滅する」という古めかしい農業保護論を、孫崎享氏は「TPPはアメリカの陰謀だ」という陰謀史観を繰り返すだけ。クルーグマンの教科書の練習問題で、「次の主張の誤りを指摘せよ」という例に出るレベルの話である。こういう重商主義のあほらしさは、当ブログでも「アゴラ」でも何度も指摘したので繰り返さない。
TPPよりもはるかに大きなインパクトをもたらすのは、円高である。1ドル=70円以下になると、もう日本で輸出産業は成り立たないだろう。しかし、それは野田政権が大規模な為替介入で阻止しようとするほど困ったことだろうか?
一般論としていえば、通貨が強くなるのはいいことである。消費者にとっては、世界の商品を安く輸入できることで実質所得が上がる。そして資産の価値が上がるので、投資収益が上がる。図のように日本の所得収支の黒字はすでに貿易黒字を超えており、日本は金利や配当で食う資産大国なのだ。

しかし今年度前半、貿易赤字になったように、こうしたトレンドはそう長くは続かない。今まで蓄積した資産を、円高のうちに有効利用する戦略が必要だ。そのために重要なのは貿易自由化ではなく、直接投資によって世界最適生産を行ない、企業収益を上げる戦略だ。これを「空洞化」というのはナンセンスで、むしろ日本は空洞化が足りない。アップルのようにハードウェアの生産拠点をすべて中国に移すぐらいの決断が必要だ。
このようなグローバル化によって企業収益は上がるが、国内の単純労働の賃金は下がる。富が資本家に集中する、マルクス的な「窮乏化」が起こるのだ。これはライシュやスペンスなど、多くの経済学者が指摘する現実である。私の知るかぎり、これを止める政策は鎖国以外にはない。これをどうするかが、21世紀の最大の問題の一つだろう。
経済学の標準的な答は、グローバル化による格差拡大を止めるべきではなく、それによる成長率の上昇分を所得再分配に回すべきだということだ。しかしこれには政治的プロセスがからみ、あまり効率的な解とはいいがたい。むしろグローバル化を拒否しているために企業収益も格差も小さい日本が、一つのロールモデルになる可能性もあろう。
TPPをめぐって論じるべきなのは、こうした本質的なグローバル化の意味なのだが、それに気づいている人さえほとんどいない。TPPについてのアメリカのアジェンダ設定は明らかにこうしたパラダイム転換を踏まえているのに、日本人はそれに気づかないで被害妄想を繰り返している。日米の戦略のレベルの違いは、絶望的に大きい。
TPPよりもはるかに大きなインパクトをもたらすのは、円高である。1ドル=70円以下になると、もう日本で輸出産業は成り立たないだろう。しかし、それは野田政権が大規模な為替介入で阻止しようとするほど困ったことだろうか?
一般論としていえば、通貨が強くなるのはいいことである。消費者にとっては、世界の商品を安く輸入できることで実質所得が上がる。そして資産の価値が上がるので、投資収益が上がる。図のように日本の所得収支の黒字はすでに貿易黒字を超えており、日本は金利や配当で食う資産大国なのだ。

しかし今年度前半、貿易赤字になったように、こうしたトレンドはそう長くは続かない。今まで蓄積した資産を、円高のうちに有効利用する戦略が必要だ。そのために重要なのは貿易自由化ではなく、直接投資によって世界最適生産を行ない、企業収益を上げる戦略だ。これを「空洞化」というのはナンセンスで、むしろ日本は空洞化が足りない。アップルのようにハードウェアの生産拠点をすべて中国に移すぐらいの決断が必要だ。
このようなグローバル化によって企業収益は上がるが、国内の単純労働の賃金は下がる。富が資本家に集中する、マルクス的な「窮乏化」が起こるのだ。これはライシュやスペンスなど、多くの経済学者が指摘する現実である。私の知るかぎり、これを止める政策は鎖国以外にはない。これをどうするかが、21世紀の最大の問題の一つだろう。
経済学の標準的な答は、グローバル化による格差拡大を止めるべきではなく、それによる成長率の上昇分を所得再分配に回すべきだということだ。しかしこれには政治的プロセスがからみ、あまり効率的な解とはいいがたい。むしろグローバル化を拒否しているために企業収益も格差も小さい日本が、一つのロールモデルになる可能性もあろう。
TPPをめぐって論じるべきなのは、こうした本質的なグローバル化の意味なのだが、それに気づいている人さえほとんどいない。TPPについてのアメリカのアジェンダ設定は明らかにこうしたパラダイム転換を踏まえているのに、日本人はそれに気づかないで被害妄想を繰り返している。日米の戦略のレベルの違いは、絶望的に大きい。