日本の農業が必ず復活する45の理由きょう霞ヶ関を通ったら、農業団体が「TPP反対」を掲げてデモをしていた。何で今ごろGDPの1%にも満たない農業の問題でこれほど盛り上がるのか、さっぱりわからない。JBpressにも書いたように、農業保護なんてTPPの主要な問題ではなく、アメリカも関心をもっていない。騒いでいるのは、日本の農業団体だけなのだ。

「アゴラ」で津上俊哉氏も書いているように、「環太平洋の自由貿易圏」という構想は1994年のボゴール宣言から続いている日本政府の基本方針で、今さら「第三の開国」などと騒ぐような話ではない。むしろ今では貿易自由化に大した意味はなくなり、直接投資のための基準認証や知的財産権などの制度的な標準化が重要になってきた。

それでも選挙の恐い政治家は「農業が壊滅する」などと嘘をついて騒ぐので、本書に従って基本的な事実を列挙しておこう:
  • 農業生産額の3割を占める野菜の関税は、ほとんどの品目のゼロから3%だが、国産比率は80%。
  • 花の関税は一貫してゼロだが、90%が国産。
  • 果物の関税率は5~15%だが、たとえばリンゴでは輸入品の比率は0.01%。むしろ輸出が増えている。
  • トウモロコシや大豆は無税なので、飼料や原料の価格が抑えられている。
  • 小麦は91%がすでに外国産。関税は252%だが、大部分は無税の国家貿易で輸入されている。
  • 大麦の関税は256%だが、飼料が大部分なので、これが無税になると畜産業界のコストが下がる。
  • バター(360%)や砂糖(328%)などの原材料の関税が高いため、乳製品やお菓子の価格が2~3倍になり、国際競争力を失っている。
  • 牛肉の関税は38.5%と高いが、歴史的には牛肉の関税が下がって輸入が増えると国産の消費量も増えた。
  • 関税の撤廃で明らかに影響が出る重要な作物は関税率778%の米だが、その影響は限定的だ。アメリカで生産される1000万トンの米のうち日本人の食う短粒種(ジャポニカ)は30万トン。これをすべて輸入しても、日本の生産量の4%。短粒種は栽培がむずかしく収量が3割以上少ないので、関税ゼロになっても品種転換はほとんど起こらない。
要するに日本の農業はすでにほとんど「開国」しており、問題は米だけなのだ。もちろん米はもっとも重要な農作物なので、農業団体が必死になるのも理解できるが、米を偏重した社会主義農政が農業を滅ぼしたことは、多くの専門家の指摘するところだ。むしろ他の作物と同様に米も国際競争にさらせば、農業に発展の余地が出て後継者も出てくるだろう。

米の生産額は、年間1兆8000億円。GDPの0.36%である。これが全滅したとしても、日本経済には何の影響もない。こんな小さな問題が民主党議員の半数に近い署名を集めるのは、「農村票」の力ではない。農業人口は、兼業農家を入れても3%に満たない。政治家が恐れるのは、農協という戦時体制の亡霊が恫喝しているからなのだ。こういう悪質な圧力団体を撲滅するためにも、TPPは進めるべきである。