peace1きょうグロービスで、中川恵一氏の話を聞いた。講演の内容は、ごくオーソドックスな放射線医学の解説だったが、ちょっと考えさせられたのはフロアからの質問だ。

「きょうの話は癌ばかりでしたが、放射能には癌以外の問題はないのですか?」
「放射線による障害は遺伝しないのですか?」
「魚は危なくないのですか?ベビーフードはどうですか?赤ちゃんは大丈夫ですか?」

中川氏も当惑していたが、「放射能」という特別に危険な毒物があると思い込んでいる人が、まだ多いようだ。いうまでもないことだが、放射線そのものは毒物でも凶器でもない。原爆でできたケロイドは熱によるもので、放射線は関係ない。以前の記事でも書いたように、100mSvの被曝による発癌リスクの増加は、受動喫煙と同じぐらいだ。したがって100mSv以下の放射線はタバコの煙のようなものと考えれば、イメージがわかるだろうか。

もちろんタバコの煙も有害だから吸わないほうがいいが、この程度のリスクは特別なものではない。武田邦彦氏は「1mSv/年と国が決めたのだから、科学的根拠がなくても守れ」というが、日本の自然放射線量は1.5mSv/年、医療放射線が4mSv/年だから、普通の人でも1年間に合計5.5mSvを浴びている。彼は自然放射線を減らせとでもいうのだろうか。きょう柏で出てきたようなマイクロシーベルトの放射線は、タバコの煙に騒いでいるようなものだ。

アリソン氏もいうように、1回で100mSv以下の放射線による発癌率の増加は認められないので、もっと低い線量で合計100mSvになっても発癌リスクが高まることは考えられない。医療放射線を何回にもわけて照射するのと同じで、1回あたりの線量が問題なのだ。彼は「月100mSv」を提案しているが、これでも低すぎるという。

こういう話をすると「御用学者」という類の攻撃が出てくる。中川氏も「いちばん厄介なのは『ゼロリスク』を求める人々だ」と嘆いていた。もちろん安全対策のコストがゼロなら線量は低いほどいいが、安全はタダではない。除染ひとつとっても数兆円のコストがかかり、それは最終的には納税者が負担するのだ。賠償も破綻処理も「悪い東電をこらしめる」という感情論ではなく、社会的コストをどうすれば最小化できるか、冷静に考えるときだろう。

追記:コメント欄にも書いたが、正確にいうとタバコの害には閾値はないので、タバコは放射線より危険である。国立がんセンターによれば、毎日1箱で年1~2Svの放射線に相当するので、1箱2.7mSv以上。上の図のような警告を表示してはどうだろうか。