Atomic Awakening: A New Look at the History and Future of Nuclear Power核エネルギーは、疑いもなく20世紀の科学の最大の発見である。物理学によって生み出された巨大なエネルギーは、世界の歴史を大きく変えたが、それは原爆という巨大な破壊力としてデビューしたため、「悪魔」のスティグマを負うことになった。本書は、その歴史を描く読み物である。

1940年代までの原子力の歴史は、物理学の輝かしい勝利だった。アインシュタインが1905年の論文で発見したE=mc2という1本の方程式で理論的に予想された莫大なエネルギーは、30年代に実験で確かめられた。それを爆弾として実現する技術がフォン・ノイマンなどによって開発され、10年足らずで爆弾が広島と長崎に落とされた。

しかし、その結果として起こった悲劇の大きさにアインシュタインは衝撃を受け、平和運動に身を投じた。フォン・ノイマンは核開発の過程で被曝した放射線が原因で癌になり、53歳で死去した。アメリカが核兵器を独占していたときはよかったが、ソ連や中国が原爆をもつようになると軍拡競争が始まり、人類を何度も全滅させることのできる核兵器が地球上に出現した。

このように核エネルギーは、爆弾と放射能という二重の呪いを受けてこの世に生まれてきたため、人々の偏見はきわめて強く、政治的なイデオロギー闘争にも巻き込まれた。もしガソリンが最初に使われたのがナパーム弾だったら、内燃機関には厳重な安全規制がかけられ、人々は爆発のリスクをきらって電気自動車を選んだだろう。

核燃料が兵器にも転用できることは事実であり、石破茂氏もいうように、核武装を憲法が禁じているわけでもない。しかし日本が核武装することは現実的にありえないし、すでに核兵器をつくるに十分な技術もプルトニウムも持っているので、原発を止めても核兵器の抑止にはならない。むしろ危険なのは、「北朝鮮にも核武装の権利がある」と主張する小出裕章氏のような反原発派である。

原発のコストの大部分は、こうした政治的バイアスによって生み出されている。この問題を科学的に整理し、その安全性や経済性をバイアスなしに分析する仕事は、まだこれからだ。いまボランティアの研究者と一緒に、こうした情報を研究・共有するためのウェブサイトを日本語と英語で立ち上げる準備をしている。正式に発足するのは年末ぐらいになると思うが、協力していただける方は事務局までご連絡を。