Power to Save the World: The Truth About Nuclear Energy朝日新聞は「原発と原爆は同じだ」という非科学的なキャンペーンを執拗に続けている。人々の恐怖に迎合して新聞を売る彼らのやり方は、戦時中の報道と同じように歴史の裁きを受けるだろう。本書は、そういう偏見から出発して原子力について調べた作家の旅の記録であり、スチュワート・ブランドも推奨するように、この問題への入門書としても最適だ。

著者は――芸術家によくあるように――かつては原子力に反対だったが、友人の科学者との会話の中で「石炭火力のほうが原子力より危険だ」という話を聞いて、多くの科学者へのインタビューを始める。そこで彼女が発見したのは、次のような事実だった:
  • 広島・長崎の被爆者は大量の放射線を浴びたと思われているが、生存者はそれほど大量に被曝していない。致死量の放射線を浴びた人は爆発によって死亡したので、被爆者の40%以上は今も生存しており、彼らの発癌率は6%増えただけだ。
  • 日本だけに限っても、原爆より東京大空襲などの通常の爆撃による死者のほうがはるかに多い。原爆が注目されるのはその熱による破壊力が大きいためであって、放射線による被害はそれよりはるかに小さい。
  • 年間200mSv以上で発癌率が高まることは統計的に明らかで、100mSv以上では何らかの健康被害が出る可能性があるが、それ以下では放射線の影響は統計的に有意ではない。LNT仮説を規制の根拠として支持する科学者は、18%しかいない。
  • 世界には、年間260mSvのラムサール(イラン)を初め、数十mSvの自然放射線のある地域がたくさんあるが、健康被害はまったく観察されていない。
  • 核実験に参加したアメリカ人に、発癌率の上昇はみられなかった。
  • 全米の原発は毎年2000トンの放射性廃棄物を出すが、石炭火力発電所は1億トンの有害物質を含む廃棄物を出す。
  • 石炭火力による大気汚染で、毎年アメリカでは24000人、中国では40万人が死亡していると推定される。石炭火力は全米で毎年44トンの水銀を排出し、6万人以上の子供が水銀の胎内汚染によって神経障害を起こす。
  • 100万kWの石炭火力発電所は毎年27トンと、原発よりはるかに大量の低レベル放射性廃棄物を出すが、普通の産業廃棄物として捨てられる。規制されているのは、その1万分の1しか放射性廃棄物を出さない原発である。
そして彼女のインタビューしたすべての科学者が「環境にとって最大の脅威は石炭火力であり、アメリカは石炭への依存度を下げなければならない」と警告した。原発を減らしても、太陽光や風力はその代わりにはならないので、化石燃料が増えるだろう。それによる効果は、反原発派の考えているのとは逆に、環境汚染の悪化なのだ。

旅を終えた著者の感想は、化石燃料に頼る文明は「子孫からの借り入れ」によって支えられているということだ。原子力は、エネルギーを効率的に使って化石燃料を節約し、環境への負荷を最小化する上で有効だ。福島事故後のインタビューでも彼女は、日本政府がメディアの過剰報道に踊らされないで原子力のリスクを冷静に評価するよう呼びかけている。