図説 基礎からわかる 被曝医療ガイドこのごろ私のところに、本書のような放射線医学の本がたくさん贈られてくる。エネルギー問題のシンクタンクをつくるという話についても、多くの研究者から協力の申し出があった。その全員が「今の日本の異常な空気では、まず科学的な事実をきちんと知らせることが必要だ」という。私はもちろん放射線医学の専門家ではないが、専門家は「隠れキリシタン」状態になっているようなので、彼らに代わって基本的な事実を確認しておく。

本書は中立な立場の放射線医学の専門家が書いた一般向けのガイドブックで、福島事故のデータも含めて放射線の影響を多くの図でやさしく説明している。放射線のリスクと他のリスクを年間被曝量で比較すると、次のようになる(括弧内の数字は発癌倍率):
  • 1000~2000mSv(1.8):喫煙・飲酒(毎日3合以上)
  • 200~500mSv(1.19):肥満・運動不足・塩分過剰
  • 100~200mSv(1.08):受動喫煙・野菜不足
これ以下については「低線量被曝の健康被害については十分なエビデンスは示されていない」と結論している。間違いなくいえるのは、かりに100mSv以下で発癌率が増加するとしても、それは受動喫煙や野菜不足より小さなリスクだということだ。環境省の行なおうとしている5mSv以上の除染は、受動喫煙よりはるかに小さい健康被害を防ぐために100兆円以上の予算を投じる常軌を逸したプロジェクトだといわざるをえない。

微量放射線の健康への影響については、むしろ死亡率を低下させるという説もある。次の図はLuckeyが広島・長崎の被爆者について出した1000人あたりの累積癌死亡率だが、1cSv(10mSv)以下では死亡率が被曝量の減少関数になっている。これは多くの被爆者データに見られる奇妙な特徴で、最初は誤差だと考えられていたが、最近ではホルミシス効果と呼ばれるようになった(本書でも紹介している)。
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そのメカニズムは不明だが、微量の放射線が細胞を刺激して活性化させ、代謝を促進するものと考えられている。ラジウム温泉が健康によいのも、このためと推定される。このように100mSv以下の放射線の健康への影響は、プラスマイナスいずれにしてもわずかなもので、何兆円もかけて除去するようなリスクではない。環境省はマスコミに迎合して過大な計画を出すのではなく、科学的な根拠にもとづいて除染を行なうべきだ。

訂正:単位を間違えていた。失礼。