孫正義氏が、アジア全体を送電線でつなぐ「スーパーグリッド」なるものを提案している。これは私もニューズウィークで紹介したように、霞ヶ関では笑い話になっていたが、まさか彼が本気で提案するとは思わなかった。


この電力網は、いったい何のために作るのか。日本の電力は原発を通常どおり稼働すれば十分余裕があるので、輸入する必要はない。電気料金が高いのは地域独占で競争がないからなので、電力を自由化すればいい。領土問題を抱える韓国から電力を輸入したら、竹島で紛争が起こると電力を止められるだろう。東アジアは、EUとは違うのだ。

太平洋戦争にせよ湾岸戦争にせよ、歴史上の戦争の多くはエネルギー資源の争奪をめぐって起こった。自国で完結している電力をわざわざ韓国や中国やロシアやインドなどに依存させようという孫氏の構想は、平和ボケでなければ、日本の国家主権を他国に譲り渡そうというねらいとしか考えられない。

もう一つの問題は、原発でできるプルトニウムが核兵器に使えることだ。日本の核燃料の管理は厳格だが、テロリストには無防備である。また新興国に原発を輸出する場合も、核兵器に転用されないように注意が必要だ。この点では、トリウム溶融塩炉などのプルトニウムのできない技術を開発する必要もあろう。

大江健三郎氏や朝日新聞は原爆と原発の区別もつかないようだが、両者のリスクは桁違いだ。核兵器は人類を何回も全滅させる量があるが、福島事故では(放射能では)死者は1人も出ていない。核軍縮は必要だが、軍備は均衡が崩れたときがもっとも危険だ。日本が原子力技術をもっておくことは、中国や北朝鮮の軍事的冒険を抑止する上でも重要だ。