先週のデフレの記事はわかりにくかったと思うが、ちょうど今週のEconomist誌の雇用特集に似たような話があるので、紹介しておこう。

今回の世界的な不況は、財政・金融政策がほとんどきかないことが特徴だ。企業業績は持ち直したが雇用は回復せず、アメリカの失業率は9%を超えた。この原因は一過性の景気循環ではなく、構造的な自然失業率が上がったからだ。Phelpsはアメリカの自然失業率を7.5%と推定している。

その最大の原因は、新興国との競争が激化したことだ。1990年以降、アメリカで創造された2700万人の雇用のうち、実に98%が非貿易財(国内のサービス業)によるものだ、とSpenceは推定している。そして貿易財部門の新しい仕事は、ほとんどがソフトウェアなどの高度技術者に限られている。

つまりデフレと呼ばれている現象の大部分は一般物価水準の下落ではなく、新興国との競争による相対価格の低下なのだ。そして新興国の安い工業製品が輸入されることによって国内の労働者は間接的に新興国の労働者と競争し、単純労働者の賃金は新興国に近づいてゆく。さらにサービス部門の賃金もバラッサ=サミュエルソン効果で製造業に引き寄せられ、実質賃金が全体に低下する。

こうした賃金の低下は「賃下げ」として起こるのではなく、正社員から契約社員への代替として起こる。アメリカでは2010年、パートタイム労働者の比率が19.7%と最高になった。非正社員が労働者の1/3を超える日本は、この意味でもトップランナーだ。

このため中高年の賃金がそれほど下がらないのに対して、若年労働者の雇用や賃金に悪影響が集中する。2007年にOECD諸国の若年失業率は14.2%(全労働者では4.9%)だったが、今年の第1四半期には19.7%(同7.3%)に上がった。若年失業率は雇用規制の強い国ほど高く、正社員の解雇が不可能なスペインでは44%にのぼる。

グローバリゼーションはすべての国を豊かにするが、すべての人を同じように豊かにするわけではない。労働市場がグローバルに二極化する傾向は避けられないが、これによって貧しくなる人々を救済するには、フルタイムの労働者を過剰に保護する雇用規制や高齢者に有利な福祉制度などを改め、個人を社会で支えるしくみに変える必要がある。