福島 嘘と真実─東日本放射線衛生調査からの報告 (高田純の放射線防護学入門シリーズ)岸博幸氏が、中国やロシアから損害賠償を請求されるリスクについて論じている。「数百兆円」という規模になるかどうかは別にして、中国もロシアも日本と司法共助協定を結んでいないため、各国内で損害賠償訴訟が起こされると、裁判所が賠償を認める可能性は否定できない。

もう一つ残された問題は、被災地の除染だ。東京では、年間1mSvを基準にして砂場の砂を入れ替える区が出ているが、こんな基準で福島県の除染をやったら、県内すべてが対象になるだろう。単位面積あたりイタイイタイ病のときと同じコストがかかるとすると、除染費用は800兆円にのぼるという話もある。

しかし4月に現地調査をした著者によれば、福島第一原発の周辺20km以内でも、放射線量は3日間の積算値で0.1mSv。医学的に影響のない100mSvはおろか、ICRPの基準とする年間20mSvもクリアしている。「原発の周辺はずっと人が住めなくなる」という政府の説明は間違いで、原発の敷地の外では今でも普通に生活できるという。一部で騒いでいる年間1mSvというのは、東京のように全国どこでも見られるレベルである。

被災者の中にも100mSv以上の放射線を浴びた人はいないので、長期的にも発癌率が上がるおそれはない。最大の放射線源であるヨウ素131の放射能は80日で1/1000に減衰するので、もうほとんど心配はないという。内部被曝も20km圏内で最大3600Bqで、健康に影響はない。牛乳の最大値は5200Bq/kgだが、健康にまったく影響はなく、政府が出荷停止にしたのは間違いだ。農作物が売れないのはすべて風評被害であり、安全性を基準にすると賠償する必要はない。

今後の除染や賠償に際して過剰な安全基準を設けると、海外も含めて訴訟が乱発され、東電の破綻のみならず財政負担が巨額にのぼるおそれが強い。「安全マージンを見込みすぎても文句は言われない」といった事なかれ主義で対応するのではなく、まず賠償や除染の基準を合理的に設定すべきだ。このとき、ICRPの基準には科学的に疑問があるという批判が強いことを勘案し、政府が国際的な場でICRP基準の見直しを求めることも必要ではないか。