「政局より政策だ」とか「マスコミは人事の記事ばかり」とよく批判する人がいるが、ここ数日のツイッターもブログも、組閣の話題であふれていた。サラリーマンはみんな人事の話が好きだから、マスコミも政局記事を書くのだ。

私はいろいろな職場を渡り歩いたが、アフター5の話題には組織の特性がよく出る。NHKでも話題の半分は人事がらみだったが、私のようなディレクター(NHKではPDと呼ぶ)よりも記者のほうが人事の話が多かった。PDはどこのセクションにいても自分で提案して番組をつくれるが、記者はどこのクラブを担当するかで仕事がほとんど決まるからだ。それでも普通の会社に比べると、マスコミの人間関係は淡泊で、上司に連れられて深夜までカラオケ、みたいな習慣はなかった。

普通の会社でもそういう人間関係は少なくなったと思うが、おもしろいのは韓国だ。学会のあとも全員参加の二次会があり、三次会、四次会で明け方までハシゴして、すごい量の酒を飲む。昔の日本の会社とよく似ている。逆に外資はアフター5のつきあいはまったくなく、人事の話も出ないという。人事異動がなく、上司ともめたらクビになるからだ。

人事の話が圧倒的に多いのは、役所である。ポストで仕事が100%決まるからだ。昼飯の話題も8割ぐらい人事の話で、「○○さんは××課長になるらしいが、同期の**さんは格落ちの△△課長らしい」というように固有名詞で話すので、部外者には何を話しているのかわからない。官僚は対外的にはポストで動くが、組織内では徹底的に固有名詞で動き、評判は飲み屋で濃密に共有される。こういう評判メカニズムで「変な人」は排除され、「力のある人」が本流になり、「**さんの引き」で人事が決まる。

今回の組閣で内閣官房副長官に竹歳誠・国土交通次官が就任したのは、霞ヶ関の評判メカニズムの一例だ。事務方の官房副長官というのは、目立たないが「スーパー事務次官」ともいうべき重要ポストで、彼が官邸の人事を決め、各省の人事にも影響を与える。昔、「霞ヶ関の生き字引」といわれた石原信雄官房副長官にインタビューしたとき、「大蔵省の**さんは?」と質問すると、「ああ**君は○○年入省で、通産省の××君と同期だ」というように全官庁の幹部の名前が入省年次つきですらすら出てくるのに驚いた。

現役の事務次官が官房副長官になるのは今回が初めてで、国交省の出身というのも異例だ。その謎解きは、野田首相の「増税シフト」の要になるポストに、財務省のリモコンのきく人物をあてたいが、財務省出身だと反発をまねく。そこで財務省の勝栄二郎次官の「引き」で、彼と仲のいい竹歳氏を起用した――ということらしい。

こういう省庁を超えた評判メカニズムをいかに巧妙に活用するかで、霞ヶ関の合意形成が決まる。この点で、予算編成で全官庁にネットワークをもつ財務省の力は強い。今回の組閣では、閣僚から増税反対派を排除し、財務相には「復興増税」が持論の安住淳氏をあて、大蔵OBの古川元久氏を経済財政諮問会議の担当相にするなど、随所に財務省の知恵がめぐらされている。来年度予算は盤石だろう。