バーナンキのジャクソンホール演説を前に、QE3をめぐる論議が盛んだ。ほとんどの観測では、彼はQE3を打ち出さないだろうし、打ち出すべきではないと論じている。クルーグマンは、ダイアーストレイツのビデオまで紹介して"Money for Nothing"(通貨供給は無駄)と揶揄している。

『市場の変相』の著者エラリアンは、「QE2は経済を回復させる効果がなく、原油などの悪性インフレをもたらしただけだ」と批判する。マクロ経済学の大御所ウッドフォードも「日銀の経験からみても、これ以上の通貨供給は無意味だ」と批判している。日銀の試行錯誤の教訓は、各国の中央銀行にも専門家にも受け継がれているようだ。

Economist誌は、名目GDP目標やインフレ目標――なつかしい話だ――が欧米でも政策オプションとして議論され始めたことについて、「日本の経験では有害無益だ」と否定的だ。欧米諸国は日銀の失敗に学んで、バブル崩壊の初期にアグレッシブな金融緩和を行ない、デフレに陥るのは防いだが、ゼロ金利でインフレを作り出すことはできない。激しく動く経済情勢の中で、中央銀行ができもしない目標に強くコミットすることは金融政策の硬直化をまねく。

金融政策が(非伝統的な手段も含めて)きかないということでは専門家の意見は一致しているが、どうすればいいのかという点では、まったくコンセンサスがない。バローは「ケインズ経済学vs普通の経済学」というコラムで、1930年代の「古典派」のような議論をしている。彼によれば「乗数効果」なんて幻想で、失業保険を延長すると失業率が上がるだけだから、市場メカニズムにまかせるしかないという。

これに対してクルーグマンやマーク・トーマなどは当然、激しく反論しているが、彼らの処方箋も75年前にケインズの書いたものと余り変わらない。どうやら2006年に日銀の行き詰まった地点から、世界の中央銀行もマクロ経済学も進歩していないようだ。これは日本のマクロ経済学研究者にとっては、世界をリードするチャンスではなかろうか。

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