菅首相は、9月に訪米して日米首脳会談をする予定だという。もしかして、ずっと辞めないつもりなのだろうか。側近でさえ彼の真意をはかりかねているようだが、今やっていることが彼の人生の目標だと考えると、合理的に理解できる。

彼は学生運動でドロップアウトし、ずっと反体制運動で生きてきた。彼の所属した構造改革派は、「工場評議会」によって労働者が企業を管理しようという一種のサンディカリズムで、国家は最終的には解体すべき敵である。ただ彼らはマルクス・レーニン主義のような暴力革命ではなく、議会で多数派を握って徐々にヘゲモニーを左へ移動させる戦術をとった。

しかし日本の企業は、グラムシが考えていた労働者管理に近い。菅氏の理想は日本企業によって実現され、そして破綻したのだ。労働者管理は、世界的にみてもユーゴなどですべて失敗し、かつてイタリア共産党を初めとして「ユーロコミュニズム」ともいわれる勢力だった構改派は消滅し、社会主義も崩壊してしまった。

つまり菅氏は若いころからの目標を失い、国家を破壊するという執念だけが残っているのではないか。今までの人生はヘゲモニーを握るための仮の姿で、最高権力を握った今、辞めるといって辞めないで政治を混乱させ、原発を止めてエネルギー政策をひっくり返し、国家をボロボロにするという目標を実現している――こう考えると、彼が今までになく元気な理由も説明できる。

星新一に「雄大な計画」という短編がある。R産業が、新入社員をライバルのK産業にスパイとして送り込む。彼はK産業の社員として、その企業秘密を握るために一生懸命に働き、重役の娘と結婚して出世し、ついに社長になって雄大な計画を実行する・・・という話だが、落ちは内緒にしておこう。