先ほどアゴラに「原発事故の損害賠償に関する公正な処理を求める緊急提言」を掲載した。これはきょうから審議入りした「原子力損害賠償支援機構法案」に反対するもので、あす記者発表する予定である。
  1. 政府の「原子力賠償支援機構法案」は撤回し、法治主義の原則に則った東京電力の処理プランを作り直すこと。
  2. 具体的には、巨額の賠償債務によって債務超過が明らかになっている以上、東京電力は会社更生型の手続きに則り、事業再生と被害者への損害賠償を行うこと。これによって東電自身の責任と、東電の財産と事業による最大の弁済を行うことを明らかにし、資産売却はもちろん、株主と金融機関に明確な責任を果たさせること。その上で残る賠償債務については、国の負担で援助すること。
  3. 一方、被災者への損害賠償は最優先し、早急に支払いを実施すること。
  4. また、電力供給に支障を生じさせないよう、国が必要な資金は供給すること。
      きょう日経CNBCの番組で、民主党の城島光力政調会長代理も「この法案については、党内でもいろいろな議論がある。反対論も少なくない」と認めていた。そのとき私も言ったことだが、この法案の扱い次第で地に落ちた民主党政権の評価を回復できるかもしれない。

      東電の株主責任を不問に付して損害賠償を電気代に転嫁するこの法案は、提言メンバーを見ればわかる通り、法律家が見ても経済学者が見ても常軌を逸したものであり、こんな法案が通るのは日本の恥だ。これは賠償を「原価+適正利潤」で電力利用者に青天井で負担させるばかりか、責任のない他の電力会社にまで「奉加帳」を回すしくみである。これは現在の地域独占を前提とするばかりでなく、賠償の終わるまでそれを固定し、電力自由化を否定するものだ。

      この法案を撤回し、東電を法的に整理して発電と送電を分離して資産を売却すれば、賠償のかなりの部分は調達可能である。これによって利用者に大きな負担をかけずに賠償が可能になるとともに、懸案だった電力自由化が一挙に進展する。今回の事故で明らかになった「原子力村」の官民癒着の原因である地域独占を廃止し、自由競争によって電気料金を決めることが、問題の抜本的な解決策だ。これによって投資効率の悪い原発は、おのずから淘汰されるだろう。

      今の電力業界は、1980年ごろの電電公社時代の通信産業とよく似ている。圧倒的な独占企業の前に誰もものが言えず、利用者はずっと黒電話を使い続けていた。それが民営化によって競争が始まったことによって爆発的なイノベーションが起こり、日本は世界一のブロードバンド大国になったのだ。

      電力産業の規模は、関連産業を入れてGDPの4%程度。通信産業にほぼ匹敵する。ここで通信のようなイノベーションが起きれば、沈滞した日本経済に活力を呼び戻すきっかけになるかもしれない。送電網が分離され、小口電力までの全面自由化が実現すれば、ソフトバンクやNTTドコモがガスタービンに参入して東電を脅かすことも不可能ではない。

      提言メンバーでもわかるように、電力自由化には八田達夫氏から飯田哲也氏に至るほぼすべての専門家が賛成しており、世論の支持も強いと思われる。経産省の官僚にも、古賀茂明氏を初めとして自由化を支持する人は多い。東電の社員でさえ「向こう10年以上もゾンビみたいな会社で政府に監視されて仕事するより、新しい会社に行きたい」という人がいる。

      民主党政権が財務省や経産省の圧力に負けず、政治主導で電力自由化を実現すれば、国民の支持を得ることができるだろう。これが彼らの最後のチャンスである。