Energy Myths and Realities: Bringing Science to the Energy Policy Debate菅首相がG8で「再生可能エネルギーを2020年代に20%以上にする」と国際公約するそうだ。公約した当人が2020年どころか来年までいるかどうかわからないので、かつての「鳩山イニシアティブ」のような空手形だが、このように「ソフトエネルギー」に大きな期待がかけられるのは、今に始まったことではない。

本書もいうように、こうしたブームの最初の火付け役は、Amory Lovinsの1976年の論文"Energy Strategy: The Road Not Taken?"である。このあと彼の書いた『ソフト・エネルギー・パス』が世界的ベストセラーになり、彼が来日したとき、インタビューしたことがある。そのとき彼は「20世紀中にアメリカのエネルギーの1/3はソフトエネルギーになる」と予言した。

いまアメリカで(水力を除く)再生可能エネルギーのシェアは4%。この90%は廃材などの燃焼による「旧世代」の再生可能エネルギーなので、ソフトエネルギー(太陽光と風力)は0.5%である。アメリカではこの種の運動も消滅したが、欧州ではいまだにソフトエネルギーに補助金をばらまいている。おかげで欧州の電気料金は、アメリカの2倍だ。

ではアメリカの電気料金が安いのは原発のせいかというと、そうではない。アメリカではスリーマイル島事故から30年以上、原発は1基もできていない。その原因はNRC(原子力規制委員会)の審査が何年もかかることばかりではなく、電力の自由化が進んだことだ。多くの州で発電と送電が分離されたため、全米には約3000の電力会社がある。株主の圧力を受ける経営者にとっては、投資の回収に30年もかかる原発は魅力がないのだ。アメリカの電気料金が安くなったのは、石炭火力にシフトしたためである。

エネルギー産業の歴史は、こうした見込み違いの連続だった。その原因は、エネルギー問題が政治的な要因を強くもっているからだ。原子力は1940年に実験で証明されてから最初の商用原発ができるまで、25年という短期間で実用化した。それは軍事技術として莫大な予算が投じられたからだ。他方、再生可能エネルギー推進派も反核運動から転じた左翼が多く、論争は経済問題ではなくイデオロギー対立になってしまう。

著者の結論は「一種類のエネルギーがすべての解決になるという話は信じるな」ということだ。原子力がかつて考えられていたような「夢のエネルギー」でないことは明らかだが、同じ意味で「再生可能エネルギー100%」などというのもナンセンスだ。エネルギーには地政学的なリスクが大きく、ムーアの法則のような技術進歩で問題が解決することも期待できないので、多様なエネルギーのオプションをもつべきだというのが著者の助言である。