きのうの一柳良雄氏のセミナーは、エネルギー産業への参入を考える人が多数参加して盛り上がった。ITは元気がないが、エネルギーは通信業界でいうと電電公社の時代ぐらいなので、規制改革をすれば大きなイノベーションの可能性がある。
ただ電力業界のプロのみなさんからは、発送電の分離や「自然エネルギー」について慎重な意見が目立った。ニューズウィークにも書いたように、送電網を分離することで電力品質が落ち、送電網や利用者のコストが上がることは確実だが、そのメリットははっきりしない。
エネルギーは成熟産業で、日本のエネルギー消費は微減である。技術革新の余地もITほど大きくない。PPSの設備投資は最低100億円なので、重厚長大企業ばかりでベンチャー向きではない。この電力会社の支配力が圧倒的に大きい産業構造を変えないと、分離だけやっても機能しないだろう、というのが業界の見方だ。その意味では、会社更生法で東電を破綻処理するほうが重要な改革だろう。
再生可能エネルギーも補助金(FIT)に頼っている限り、産業として自立できない。IPCCは「2050年までに世界のエネルギーの80%を再生可能エネルギーでまかなえる」という報告書を出したが、Registerも指摘するように、本当にそんなことをしたらエネルギーが不足して途上国では何億人も餓死する。先進国でも、FITで電気料金は数倍になるだろう。
もっとも「クリーンなエネルギーのコストを社会で負担する」という非経済的な理由で再生可能エネルギーの高価格を認めるなら、それはそれで一つの政策である。だから一柳氏の言葉でいえば、エネルギー政策は「3つのE」の組み合わせを最適化する連立方程式なのだ。
これは金融でいうと収益資産(化石燃料)と安全資産(再生可能エネルギー)とその中間(原子力)の中からどういう組み合わせを選ぶかというポートフォリオ選択の問題である。図のAのように経済性を重視するなら化石燃料(石炭や天然ガス)を増やしたほうがいいが、Bのように環境を重視するなら再生可能エネルギーを増やしたほうがいい。最適の組み合わせは、この実現可能フロンティアの制約のもとで国民の効用を最大化する点Cで決まる。
エネルギーのリスクは大きいので、通常は特定の資産に片寄った「コーナー解」は最適にならない。国民投票で原発を廃止したイタリアの電気料金は欧州で最高で、経済はボロボロだ。河野太郎氏のいう「再生可能エネルギー100%」は、財産をすべて普通預金にするようなもので、安全だが経済は停滞する。
「脱原発か否か」などというのは、金融で「株式を廃止するか否か」というような愚問である。問題は特定の資源の是非ではなく、国民の選好に合わせてポートフォリオを最適化することだ。これまでは経産省が計画経済的に決めてきたが、今後は市場で多様なエネルギーを柔軟に組み替える必要があるので、発送電の分離が望ましい。つまりそのメリットは、単なる価格低下ではないのだ。
ただ国民の「選好」は多分に感情に左右されるので、今は人々の気分がBに近いところにあるだろう。こういうときポピュリストの政権が「エネルギー政策の見直し」なんかやると、高コスト・低成長のポートフォリオに片寄るおそれが強い。だから今いちばん大事なのは、菅内閣にエネルギー政策を決定させないことである。
エネルギーは成熟産業で、日本のエネルギー消費は微減である。技術革新の余地もITほど大きくない。PPSの設備投資は最低100億円なので、重厚長大企業ばかりでベンチャー向きではない。この電力会社の支配力が圧倒的に大きい産業構造を変えないと、分離だけやっても機能しないだろう、というのが業界の見方だ。その意味では、会社更生法で東電を破綻処理するほうが重要な改革だろう。
再生可能エネルギーも補助金(FIT)に頼っている限り、産業として自立できない。IPCCは「2050年までに世界のエネルギーの80%を再生可能エネルギーでまかなえる」という報告書を出したが、Registerも指摘するように、本当にそんなことをしたらエネルギーが不足して途上国では何億人も餓死する。先進国でも、FITで電気料金は数倍になるだろう。
もっとも「クリーンなエネルギーのコストを社会で負担する」という非経済的な理由で再生可能エネルギーの高価格を認めるなら、それはそれで一つの政策である。だから一柳氏の言葉でいえば、エネルギー政策は「3つのE」の組み合わせを最適化する連立方程式なのだ。
- Energy:安定供給できるのか
- Economy:価格は安いのか
- Environment:環境汚染は小さいのか

エネルギーのリスクは大きいので、通常は特定の資産に片寄った「コーナー解」は最適にならない。国民投票で原発を廃止したイタリアの電気料金は欧州で最高で、経済はボロボロだ。河野太郎氏のいう「再生可能エネルギー100%」は、財産をすべて普通預金にするようなもので、安全だが経済は停滞する。
「脱原発か否か」などというのは、金融で「株式を廃止するか否か」というような愚問である。問題は特定の資源の是非ではなく、国民の選好に合わせてポートフォリオを最適化することだ。これまでは経産省が計画経済的に決めてきたが、今後は市場で多様なエネルギーを柔軟に組み替える必要があるので、発送電の分離が望ましい。つまりそのメリットは、単なる価格低下ではないのだ。
ただ国民の「選好」は多分に感情に左右されるので、今は人々の気分がBに近いところにあるだろう。こういうときポピュリストの政権が「エネルギー政策の見直し」なんかやると、高コスト・低成長のポートフォリオに片寄るおそれが強い。だから今いちばん大事なのは、菅内閣にエネルギー政策を決定させないことである。