日本卸電力取引所(JEPX)から、日産などPPS(特定規模電気事業者)の脱退が相次いでいる。3月14日にJEPXの東京市場が閉鎖されて以来、市場が再開される見通しが立たないためだ。その理由は「需給バランスの崩れにより、東京市場の託送が不可能になったため」と説明されているが、これは技術的に不可能になったからではない。東電が使わせないためだ。

JEPXの取引は電力会社の送電網を使って行なわれるので、東電がその利用を拒否すると開くことができない。今回もPPSから「電力が足りないのなら、東電はJEPXで調達すべきだ」という批判があったが、東電は「スポット市場を開くと単価が暴騰する」とこれを拒否し、市場を経由しないで特定のPPSから東電の決めた「適正価格」で調達している。

JEPXは、発送電の分離を求める経産省と抵抗する電事連の妥協策として2003年に設立されたが、インフラを買い手の電力会社に依存しているため、市場の独立性が担保されていない。電力会社の産業用電気料金は非常に安い(高い家庭用電気料金でそれを補填している)ので、今の価格体系ではPPSは電力会社と競争できない。このため、JEPXで取引される電力は、全電力量の1%程度にとどまる。

今回の震災はPPSの商機だったが、東電は市場からの調達を拒否して計画停電を選んだ。業界には「訴訟も辞さない」との声があり、今回の脱退もこうした不公正な取引への抗議だと思われるが、大部分のPPSは沈黙を守っている。圧倒的な市場支配力をもつ東電に逆らうと、つぶされるからだ。そして電力会社を大スポンサーとするマスコミも、東電の反競争的な行動を報じない。このままでは、日本の電力自由化は有名無実になってしまう。