すっかり忘れていたが、4年前に浜岡原発について私はこう書いていた。
中越沖地震で衝撃的だったのは、柏崎原発で50件もの故障・破損が起きたことだ。しかも設計で想定されていたM6.5を超えるM6.8がほぼ直下で起きたとされている。テレビでは変圧器の火災が注目されていたが、危ないのは配管類だ。さらに恐いのは、制御系に問題が起きて原子炉が制御不能になることである。
これで私が、かつては「原発反対派」だったことがわかるだろう。むしろ「炉心溶融が起こって首都圏のほうに風が吹いた場合は、数百万人の死者が出るとも予想されている」とオーバーな数字を出しているが、これは「数百万人の避難」の誤りである。炉心溶融で圧力容器が全壊する可能性は工学的には否定できないので、最悪の場合の被害を最小化するmin-max原理で考えると、浜岡に建てたのは間違った経営判断だった。

中部電力が浜岡に1号機を建てたのは他の候補地で反対運動が起こったためで、東海地震が話題になる前だった。このため1号機と2号機の設計は、その最大想定震度に配慮していなかった。特に大きな問題は、設計で想定している最大加速度が450ガルで、新耐震基準800ガルに及ばないことだった。改造によって耐震性を増すコストが大きすぎるため、1・2号機は廃炉とし、6号機を建てることになった。

東日本大震災は世界史上にもまれな大地震だったが、福島第一原発の最大加速度は448ガルと新耐震基準の想定内だった。1号機は1967年に建設されて老朽化した原子炉だったが緊急停止し、配管の破断も起こらなかった。だから前にも書いたように、今度の事故で日本の原子炉本体の耐震性はむしろ証明されたのだ。

80年代以降に建てられた浜岡の3~5号機は補強工事で800ガルをクリアしており、地震に関する限り安全性は十分である。だから今回の首相の「要請」でも、原子炉本体の補強工事は求められていない。首相の振り回す「向こう30年で震度6以上が起こる確率は87%」という数値も地震調査研究推進本部の「参考値」で、公式には確率は発表されていない。

福島第一で問題を起こしたのは予備電源の浸水だが、一昨日の記事でも書いたように津波の対策はすでに行なわれたので、「防潮堤の完成まで」という期限は無意味である。防潮堤を理由にしたのは他の原発も止めろという話に拡大することを恐れたのだろうが、今回のように客観的基準なしにアドホックに止めようとすると、そういう波及効果は避けられない。

ただ地元に不安が高まっていることを考えると、河野太郎氏のいうように簡略化した「ストレステスト」をやることはいいアイディアだと思う。具体的には、今回の福島の地震データでソフトウェアによるシミュレーションをやってみればいいのだ。原発の安全審査には「再審査」というのはないが、これだけの大事故があったのだから、再審査して危険だったら止めればいい。

そういう法的な手続きなしに個人的な「要請」で原発を止める前例をつくると、日本の電力会社は深刻な経営リスクに直面する。20年近く運転してきた原子炉を止めるのに、一刻を争う緊急性はない。首相が止めたければ、少なくとも原子力安全委員会にはかって法的な手続きを踏んでやるべきだ。それが法治国家というものである。