オサマ・ビンラディンが殺されたらしい。アメリカ大統領が個人の殺害を発表するのも異例だが、あらためて考えると、10年も続いた「テロとの戦い」とは何だったのか、疑問をもたざるをえない。

ダン・ガードナーも指摘するように、テロによる死者は全世界で毎年約300人。そのほとんどは中東(特にイスラエル)で、これはアフガニスタン・イラク戦争のあとも減っていない。アメリカ国内でのテロの死者は、9・11以来ゼロだ。他方で、戦争による軍民の死者は約10万人。どう考えても、「テロとの戦い」は死者を減らすのではなく増やす結果になったというしかない。

しかしアメリカの軍産複合体にとっては、これは大勝利だろう。冷戦後、減らされてきた軍事予算がこれで増額され、ソ連に代わる新たな敵を作り出すことで、ブッシュ政権は圧倒的な支持を得たからだ。政治家やメディアにとっては、テロはおいしいビジネスだ。彼らにとって重要なのは国民のバイアスに迎合して票や読者を獲得することであり、そのためには大事な問題より目立つ問題に全力を投入することが合理的なのだ。

テロの脅威は、放射能の脅威によく似ている。どのような定量的基準でみても、原発は火力発電所より安全であり、OECD諸国では放射線によって歴史上1人も死んでいない。福島第一原発の事故でも、放射線による死傷者はいない。それでもマスコミが「原発は恐い」と騒ぐのは、それが危険だからではなく、多くの人々の関心を引くからだ。

こうしたバイアスを論理的な説得で是正することは困難である。それはもともと事実にもとづかない感情なので、どんな数字を出しても変えることはできないからだ。こういう一時的な興奮は時間とともに飽きられて消えるので、それを待つしかない。オウムの事件のあと、日本でも「テロの脅威」が騒がれたのを覚えてますか?