著者の昔の本は読んではいけない本のリストに挙げたが、本書はそれを上回る(下回る?)駄本である。取り上げる価値もないのだが、最近ネット上で本書を根拠にしてTPPを批判する言説が目立つので、簡単にコメントしておく(画像にリンクは張ってない)。
新書で250ページ余りだが、繰り返しが多く中身が薄い。彼の出ているYouTubeを見れば十分である。内容はここで言っている重商主義の他には、次の2つだけ:
新書で250ページ余りだが、繰り返しが多く中身が薄い。彼の出ているYouTubeを見れば十分である。内容はここで言っている重商主義の他には、次の2つだけ:
- TPPは実質的にはアメリカとのFTAである
- TPPで輸入が増えると、デフレになる
1からいうと、TPPの9ヶ国のうちGDPで圧倒的に大きいのは日米であり、実質的な日米FTAである。そんなことは自明だが、どこが悪いのか。多国間がいやなら二国間のFTAを結べというのかと思ったら、自由貿易はよくないという話に飛躍する。これは彼の前著への書評で批判した通り、陳腐な保護主義のレトリックに過ぎない。
2は浜矩子氏の「ユニクロ悪玉論」と同じで、この繰り返しが本書の半分以上を占める。貿易自由化で輸入価格が下がるのは相対価格の変化であって、貨幣的なデフレではない。だから、それは著者の推奨するバラマキ公共事業のようにすべての財の需要を追加しても変わらない。このへんの著者のマクロ経済学の理解はリフレ派以下の「どマクロ」で、学生の答案なら落第である。
TPPのポイントは、著者が本書の多くを費やしている農業ではない。金融や電気通信などのサービス貿易の自由化と、雇用規制や環境規制などの国際標準化である。日本のサービス業は、複雑な規制に守られて労働生産性が低い。それを撤廃して国際標準に合わせることは重要である。また実質的に解雇を禁止している日本の雇用規制が、TPP交渉でアメリカに「不公正な非関税障壁だ」と批判される可能性も大きい。
つまりTPPは、80年代の日米構造協議の再来なのだ。実際には、アメリカは日本に関心はないので、TPPはそれほど盛り上がらないだろう。アメリカ自身も砂糖などを例外にするよう求めており、交渉がまとまるかどうかもわからない。6月に参加するという民主党政権のスケジュールも、震災で遅れそうだ。しかし「黒船」が来ないと日本は動かないので、この程度の外圧でもないよりましだ。
TPPに代わって著者が唱えるのは、バラマキ公共事業と「食料自給率」を守るための保護貿易、要するに現状維持だ。日本の現状がそれほどすばらしいと思っているのだとすれば、つくづく幸福な人物である。彼が経産省のキャリア(京大に出向中)でなければ、誰も相手にしないだろう。
2は浜矩子氏の「ユニクロ悪玉論」と同じで、この繰り返しが本書の半分以上を占める。貿易自由化で輸入価格が下がるのは相対価格の変化であって、貨幣的なデフレではない。だから、それは著者の推奨するバラマキ公共事業のようにすべての財の需要を追加しても変わらない。このへんの著者のマクロ経済学の理解はリフレ派以下の「どマクロ」で、学生の答案なら落第である。
TPPのポイントは、著者が本書の多くを費やしている農業ではない。金融や電気通信などのサービス貿易の自由化と、雇用規制や環境規制などの国際標準化である。日本のサービス業は、複雑な規制に守られて労働生産性が低い。それを撤廃して国際標準に合わせることは重要である。また実質的に解雇を禁止している日本の雇用規制が、TPP交渉でアメリカに「不公正な非関税障壁だ」と批判される可能性も大きい。
つまりTPPは、80年代の日米構造協議の再来なのだ。実際には、アメリカは日本に関心はないので、TPPはそれほど盛り上がらないだろう。アメリカ自身も砂糖などを例外にするよう求めており、交渉がまとまるかどうかもわからない。6月に参加するという民主党政権のスケジュールも、震災で遅れそうだ。しかし「黒船」が来ないと日本は動かないので、この程度の外圧でもないよりましだ。
TPPに代わって著者が唱えるのは、バラマキ公共事業と「食料自給率」を守るための保護貿易、要するに現状維持だ。日本の現状がそれほどすばらしいと思っているのだとすれば、つくづく幸福な人物である。彼が経産省のキャリア(京大に出向中)でなければ、誰も相手にしないだろう。