福島第一原発の状況はまだ流動的だが、今のところ最悪の事態ではない。炉心溶融(meltdown)というのは、普通は炉心が完全に溶融して原子炉を破壊し、大量の核廃棄物が噴煙となって風に乗って飛散するチャイナ・アクシデントのことをいう。これが本当に起こると、最悪の場合は数万人が死傷し、半径数十kmには人が住めなくなる。

今回の事故では、圧力容器も格納容器も破損していないので、被害は限定的だ。熱反応はコントロールできていないが、制御棒が入っているので核分裂は止まっており、チャイナ・アクシデントになることは考えにくい。これを炉心溶融と呼ぶのは、事故を「事象」と言い換える政府にしては、ずいぶん勇ましいネーミングである。海外でmeltdownと報道されていることに対して、枝野官房長官は「メルトダウンではない」と言っているが、こういう発言はますます混乱する。

「原発が爆発した」というのもミスリーディングで、爆発したのは原子炉本体ではなく建屋であり、軽微な水素爆発である。建屋が吹っ飛んだのは危険だが、核爆発が起こったわけではない。格納容器の弁から逃がす蒸気だけなら、人的被害はほとんどないだろう。特に日本テレビは、爆発の瞬間の映像を繰り返し流してコメンテーターが「爆発」と言っていたが、こういう不安を煽るような報道はよくない。

私は原発訴訟を1年ぐらい取材したことがあるが、冷却材が熱媒体を兼ねる軽水炉では、理論的にはチャイナ・アクシデントが起こりうるという点では原告(周辺住民)と被告(国)の意見は一致しており、違いはその確率だけだった。しかも今回の震度は普通の原発の設計震度をはるかに超えており、これで最終的に数万人の一時避難ですめば、むしろ軽水炉の安全性を証明することになろう。

原発は環境問題で注目されているが、今回の事故で立地がむずかしくなりそうだ。しかし冷静に考えれば、100年に1度の悪条件で「ストレス・テスト」を行なったことは、その安全性についてまたとない証拠を提供したといえるのではないか。