政府は福島第一原発で爆発が起こったと発表する一方、1号機で炉心溶融が起こった可能性があると発表した。ところが事故が原子炉建屋で起こったのかタービン建屋で起こったのかさえ発表しないので、事態の全貌がわからない。とりあえず今までの公表情報をもとに推測してみた。

たとえ原子炉建屋だとしても、格納容器と原子炉が破損していなければ、放出された放射性物質は格納容器の弁を開けて放出した蒸気だけなので、それほど深刻なレベルではないと思われる。原発の敷地では1ミリシーベルトという高い放射線が観測されているが、これは大気中に放射能を帯びた蒸気があるためで、その粒子が飛散する距離は限られている。

どれぐらいの範囲の住民が退避すべきかは、事故の中身がわからないので言いにくいが、今夜は陸から海に風が吹くので、政府の指示する半径20km以上の距離の人は外出を控える程度でいいだろう。本当に炉心溶融が起こって原子炉が崩壊した場合は、核燃料が大気に放出されるので、半径100km以内の人は逃げた方がいいが、今のところそういう事態は確認されていない。

保安院が炉心溶融という重大事故を示す言葉を軽々しく使うのはよくない。炉心溶融というとチェルノブイリ事故を連想する人が多いと思うが、チェルノブイリは黒鉛炉という特殊な炉がずさんな運転で暴走したもので、軽水炉では起こりえない。今回は緊急停止して制御棒が入っているので核分裂は止まっており、炉心が溶けて冷却水と反応して爆発し、原子炉を破壊する最悪の事態は考えにくい。

ありうるのは、スリーマイルと同様に核燃料などの放射性物質が大気にさらされる事態で、事故が原子炉建屋だとすれば、建屋がないので汚染はもっと深刻である。ただ今のところ格納容器も原子炉も破損したという情報はないので、炉内の水蒸気を逃がして原子炉を守れば破損は防げる。これによって放射性物質が大気中に飛散するが、原子炉が崩壊すると最悪の事態になるので、住民を避難させた上で蒸気を逃がすしかないだろう。

スリーマイルというと「大事故」というイメージがあるが、実際には死傷者はゼロであり、周辺住民の被曝も一人1ミリシーベルト以下だった。これも炉心溶融のうちに分類されるが、今回の事故がスリーマイル程度の炉心溶融ですむとすれば幸運である。それにしても、どの建屋かという単純な事実を事故から5時間たっても発表しない政府の情報管理はどうなっているのだろうか。

追記:枝野官房長官の発表によれば、爆発は原子炉建屋で起こったようだ。事態はスリーマイルに近づいているようにみえるが、建屋がなくなったので被曝はもっと悪い。