昨夜から出ている原発についての情報が錯綜しており、メディアの報道もミスリーディングなので、簡単に問題を整理しておく。

朝日新聞によると、福島第一原発の原子炉は地震で緊急停止したが、緊急炉心冷却装置(ECCS)が動かなくなった。別の装置で炉心に水を入れて冷やしていたが、午後8時半にはそれも止まったという。ECCSは炉心の温度が上がりすぎたとき、自動的に高い水圧で炉心に冷却水を注入する装置で、これが作動しなくなったというのは重大な事故である。

東電の発表によれば、炉心に注水する隔離時冷却装置は動いていたがこれも停止。停電に加えて非常用発電機もすべて停止し、冷却できない状態になっているという。その結果、格納容器の中の蒸気が過熱して圧力が高まったため、蒸気を放出することになった。メディアはそればかり報じているが、蒸気の放出は大した問題ではない。

TKY201103110723図のように原発は圧力容器(原子炉)と格納容器の二重構造になっており、今回放出されるのは格納容器の中の蒸気である。これは原子炉の外なので、放射能は微量であり、政府の発表のように健康への影響はほとんどない。問題はそこではなく、ECCSが動いていないことである。これは官邸の0:30の資料(p.7)にも書かれている。

(予測)22:50 炉心露出
(予測)23:50 燃料被服破損
(予測)24:50 燃料溶融
(予測)27:20 放射性物質の放出

ところが2:30の資料では

21:54 2号機に監視、水位計が復帰し、水位L2を確認
23:00 1号機に関し、タービン建屋内で放射線量が上昇
00:00 1号機に関し、非常用復水器で原子炉蒸気を冷やしております
    2号機に関し、仮設電源により原子炉水位は確認でき水位は安定
    3号機に関し、原子炉隔離時冷却系で原子炉に注水

と書かれている。東電は電源車51台を原発に送り、きのう深夜に1台が到着して一部の電源を確保したというから、これは好意的に読めば、電源車によって予測されていた「燃料溶融」が起こらなかったとも解釈できる。しかし「タービン建屋内で放射線量が上昇」したりしているところをみると、炉が完全にコントロールできたとは思えない。

ECCSが動くのであれば、電源車がすべて到着すれば機能を回復する可能性もあるが、配管などが破損していると電源を確保しても冷却できない。官邸の発表ではこの点がはっきりしないが、「水位は安定」と書いてあるところを見ると、少なくとも2号機の冷却装置は機能しているのだろう。

「燃料溶融」が完全なメルトダウン(炉心溶融)を意味するわけではない。核分裂が暴走して炉心溶融で圧力容器が破壊されると、核燃料が水蒸気と反応して爆発し、大量の放射性物質が大気中に放出される。これがチェルノブイリのような最悪の事態だが、今回は緊急停止で制御棒が入っているので核分裂は止まっており、その心配はない。

核分裂が止まっても高い崩壊熱が出るので、冷却水が不足すると炉の温度が下がらず、炉内の圧力が上がって核燃料を含む冷却水が放出される。最悪の場合、スリーマイル島のように大量の放射性物質が格納容器の外に出るリスクはあるが、この場合でも建屋から大気中に出る放射能は軽微で、人的被害もほとんどない。

ただメディアの報道は蒸気の放出に集中していて、炉内の温度や圧力がコントロールできたのかどうかがよくわからない。こんな曖昧な発表で「安心しろ」といわれても無理である。原子炉がコントロールできているのかどうかについて、政府はもっとくわしい情報を出すべきだ。

追記:福島第一に続いて、福島第二でも蒸気の放出が始まったようだ。これ自体はあまり心配する必要がないが、炉内の圧力が上がっているのは原子炉を制御できていないことを示す。しかし福島第一の2号機でECCSが稼働したとのことなので、最悪の事態はまぬがれそうだ。

追記2:日経新聞によると、1号機で炉心溶融が起きたようだ。ECCSも作動していないのでかなり危険だが、本文で書いたように炉心溶融だけならスリーマイルでも起きた。放射能汚染はかなりひどくなるだろうが、原子炉が崩壊しない限り大事故にはならない。