菅政権にゆさぶりをかける民主党議員が「TPPを考える国民会議」なるものを結成した。驚いたのは、その代表世話人として宇沢弘文氏が記者会見したことだ。彼は私の大学時代の先生であり、学問的に教わったことも多いが、90年代以降は極端な農業保護主義を主張するようになった。今回も農協新聞に寄稿し、TPPを激しく攻撃している。
菅直人が「平成の開国」と叫ぶとき、「安政の開国」を念頭に置いてのことであろう。1858年井伊直弼によって締結された日米修好通商条約は、治外法権、関税自主権の放棄、片務的最恵国待遇からなる極限的な不平等条約である。「安政の開国」の結果、日本の経済、社会は、とくに農村を中心として、致命的なダメージを受けることになった。
驚いたことに、彼は明治維新による開国を否定するのだ。普通の人はこのへんでついていけないと思うが、彼はさらに戦後の「パックス・アメリカーナ」も全面的に否定し、実態の不明な「新自由主義」や「市場原理主義」を繰り返し攻撃する。他方、「農の営みは人類の歴史とともに古い」として、その保護を主張する。彼は資本主義を全面的に否定し、鎖国と農耕社会に戻れと主張しているのだ。
こういう農本主義は、明治国家の偽造したイデオロギーである。網野善彦も指摘したように、「百姓」は農民だけなく商人や職人などを含む概念であり、近世以前の社会のダイナミズムを生んだのは農村を行き来したノマドだった。しかし明治以降、国民を家にしばりつけて管理する戸籍制度がつくられ、それを統治する国家組織が農村組合であり、戦時経済でつくられた統制団体が農業会だった。農協はその直系である。
だから山下一仁氏も指摘するように、農協は戦前から受け継いだ政治的・経済的な権力によって農業を独占的に支配し搾取してきた。その最大の権力基盤は農協を通じて配布される農業補助金であり、こうした構造が自民党政権をながく支えてきた。今回の「国民会議」に集まっているのも、農業利権を食い物にする民主党の農水族議員である。
宇沢氏は東京で農協幹部や政治家の話しか聞いていないのだろうが、私は地方に勤務して何度も農協を取材したことがある。どこの村に行っても農協は農民を搾取する組織として怨嗟の的であり、農協の幹部はいかに役所をだまして多額の補助金を獲得するかのテクニックを得意げに語った。宇沢氏が美化する農協こそ、戦前の日本を滅ぼした国家資本主義の最後の砦なのだ。
人間は年をとると幼児に返るという。東大経済学部でマル経と闘って「近経」を輸入した宇沢氏や浜田宏一氏が、70歳を過ぎて社会主義に回帰し、国家が市場に介入せよと主張するのは、若いころ植え付けられた左翼の遺伝子なのだろう。残念ながら、サミュエルソンの有名な言葉は今も正しいようだ。
こういう農本主義は、明治国家の偽造したイデオロギーである。網野善彦も指摘したように、「百姓」は農民だけなく商人や職人などを含む概念であり、近世以前の社会のダイナミズムを生んだのは農村を行き来したノマドだった。しかし明治以降、国民を家にしばりつけて管理する戸籍制度がつくられ、それを統治する国家組織が農村組合であり、戦時経済でつくられた統制団体が農業会だった。農協はその直系である。
だから山下一仁氏も指摘するように、農協は戦前から受け継いだ政治的・経済的な権力によって農業を独占的に支配し搾取してきた。その最大の権力基盤は農協を通じて配布される農業補助金であり、こうした構造が自民党政権をながく支えてきた。今回の「国民会議」に集まっているのも、農業利権を食い物にする民主党の農水族議員である。
宇沢氏は東京で農協幹部や政治家の話しか聞いていないのだろうが、私は地方に勤務して何度も農協を取材したことがある。どこの村に行っても農協は農民を搾取する組織として怨嗟の的であり、農協の幹部はいかに役所をだまして多額の補助金を獲得するかのテクニックを得意げに語った。宇沢氏が美化する農協こそ、戦前の日本を滅ぼした国家資本主義の最後の砦なのだ。
人間は年をとると幼児に返るという。東大経済学部でマル経と闘って「近経」を輸入した宇沢氏や浜田宏一氏が、70歳を過ぎて社会主義に回帰し、国家が市場に介入せよと主張するのは、若いころ植え付けられた左翼の遺伝子なのだろう。残念ながら、サミュエルソンの有名な言葉は今も正しいようだ。
Funeral by funeral, theory advances.