みんなの党の江田憲司氏が「なぜ名目4%成長が必要か?」というブログ記事を書いている。江田氏は橋本行革を進めた改革派で政策にも明るいが、残念ながら東大法学部にありがちな経済オンチである。この短い記事にも、間違いがたくさんある。
日本も、経済が悪い悪いと言われながらも、実質ベースでは、それほど世界に遜色のない成長率(実質1%~1.5%)は達成している。それでは、なぜ日本の名目成長が低いのか。その理由がまさにデフレなのだ。ここ何年か、日本は▲1%前後の物価下落が続いている。その差が3%(他の先進国2%vs▲1%日本)。このギャップを埋めれば、日本も名目4%成長がみえてくる。
まず「実質ベースで1~1.5%」というのは誤りである。ここ10年の平均実質成長率は0.8%であり、潜在成長率は0.5%程度と推定されている。CPIもここ10年の平均では-0.5%程度で、このため名目GDPがゼロ成長になっているのだ。だから名目4%成長するためには、3.5%のインフレが必要である。
我々は「デフレとは優れて貨幣的現象である」ととらえている。すなわち、ザックリ言うと、貨幣とモノとの需給のバランスで価格は決まるということだ。価格が下がり続けるということは、市場で貨幣よりモノが多い、つまり、お金の方に希少価値があり、その結果、モノの値段が下がる。これがデフレ現象だ。
こういうナンセンスな話で素人をだますのが最近のリフレ派の手口らしいが、これは一見しておかしい。「貨幣よりモノが多い」というのは意味不明だが、貨幣に超過需要があることと解釈すると、それはデフレの原因にはならない。金利が上がって貨幣需給が均衡するだけだ。これは金融市場の需給条件であって、物価とは関係ない。

江田氏はたぶん「ワルラス法則」を勘違いしているものと思われる。これは「実物市場に超過供給があるときは貨幣市場に超過需要があるはずだ」という話だが、池尾和人氏も指摘するように誤りである。貨幣経済ではcash-in-advance制約があるので貨幣市場と財市場は非対称になっており、ワルラス法則は成立しない(Σ超過需要≠0)。均衡状態(超過需要=0)では事後的に成立するが、それはtrivialな恒等式である。

まぁそれはいいとしよう。政治家がワルラス法則を知っている必要はない。問題はみんなの党の提唱する政策だ。
それではどうするか。その一つが、みんなの党が提案している「日銀法改正案」だ。政府と日銀がアコード(協定)を結び「名目4%成長」を共通の目標とする。ただし、中央銀行の独立性はあるから、その達成手段は日銀に任せる。しかし、その目標未達の場合は、政府・日銀双方でしっかりレビューし対策を講じる。
潜在成長率0.5%の経済を名目4%成長にするには、前に書いたように3.5%のインフレが必要だが、このとき名目長期金利(実質金利+インフレ率)も現在の1.3%から4.8%になる。そのとき何が起こるだろうか。

アゴラでも紹介したように、邦銀の金利リスクは1%ポイントあたり9兆円だ。これは邦銀の業務純益の3倍であり、地銀の自己資本は30%浸食される。3.5%ポイントも長期金利が上がったら、長期国債を大量に保有している地銀はほとんどが債務超過になるだろう。

もしかすると、みんなの党は地銀・第二地銀を全部つぶし、日本の金融システムを「焼け野原」にしてハードランディングさせようと考えているのかもしれない。それは私が「もしフリ」で想定したシナリオだが、外科手術が避けられないなら早いほうがいい。

要するに、潜在成長率を上げないで日銀が金をばらまくだけで万事解決、などというフリーランチはないのだ。みんなの党は一知半解の経済理論を振り回すのはやめて、日本経済の生産性を高める規制改革を考えるべきだ。