きのうは日本の電波行政が相撲の八百長に似ていることを示したが、これは偶然の一致ではない。マスコミの監視を逃れてきた電波行政には、前近代的な官民関係がいまだに強く残っているからだ。今週のニューズウィークで書いた「貸し借り」は、一種の贈与にあたるが、相撲の八百長もこの原理で動いている。力士の「注射」に現金の授受はなく、別の場所で星を返す貸し借りで八百長のネットワークは維持されている。
日本では会社の中の人間関係でも商慣習でも、「貸しをつくった」とか「借りを返す」といった行動が実に多い。相撲の八百長でも明示的な契約はないので、借りたまま「食い逃げ」することが合理的だが、そういうことをやると評判を落とし、村八分になる。この短期的な利益と長期的な評判のどちらが重要になるかは、贈与の大きさで決まる。
日本では会社の中の人間関係でも商慣習でも、「貸しをつくった」とか「借りを返す」といった行動が実に多い。相撲の八百長でも明示的な契約はないので、借りたまま「食い逃げ」することが合理的だが、そういうことをやると評判を落とし、村八分になる。この短期的な利益と長期的な評判のどちらが重要になるかは、贈与の大きさで決まる。
ゲーム理論で考えると、繰り返しゲームで「約束を守ります」といってもチープトークになって信用できないが、約束の担保として最初に「贈り物」を交換し、信頼が裏切られない限り取引は続けられるが、一度でも相手をだましたら取引は打ち切られ、贈り物は没収されるとすると、贈り物の価値が裏切りの利益よりも十分高い場合、協力が進化的安定戦略になる(Carmichael-MacLeod)。
伝統的社会に広く見られる贈与がどういう意味をもつのかは重要な問題だが、長期的関係に投資するコミットメントと考えることもできる。若年労働者が「雑巾がけ」を強いられるのも、系列関係で一次下請けになるのに時間がかかるのも、このような初期投資によってメンバーシップの価値を高めるしくみである。
官民関係の中で最大の贈与は、天下りを受け入れることだ。これは役所から強要されるわけではないが、贈与を受けた役所が裏切ると長期的関係が崩壊して大きなダメージを受ける。だから企業にとって賢い戦略は、役所にいわれなくても先に贈与して、彼らに大きな貸しをつくることだ。ソフトバンクがウィルコムを救済するのも、NTTドコモが赤字覚悟でVHF帯のマルチメディア放送をやるのも、総務省への贈与である。
贈与は、アウトサイダーを排除するインセンティブにもなる。非公式の贈与は、相手が逃げた場合には立証不可能な密約なので、メンバーが固定されていないと機能しない。だからアウトサイダーにはわかりにくい暗黙の約束で互いを拘束し、相撲部屋のように新しいメンバーが参入できないようにすることが重要である。
この八百長ネットワークを破壊するには、オークションのような一度切りのゲームを導入して裏切りの利益を大きくする必要があるが、それがまさに官民ともにオークションを恐れる理由である。ソフトバンクも「中の人」になってしまった今では、役所や業界の自浄作用には期待できない。この構造は政治が変えるしかない。
伝統的社会に広く見られる贈与がどういう意味をもつのかは重要な問題だが、長期的関係に投資するコミットメントと考えることもできる。若年労働者が「雑巾がけ」を強いられるのも、系列関係で一次下請けになるのに時間がかかるのも、このような初期投資によってメンバーシップの価値を高めるしくみである。
官民関係の中で最大の贈与は、天下りを受け入れることだ。これは役所から強要されるわけではないが、贈与を受けた役所が裏切ると長期的関係が崩壊して大きなダメージを受ける。だから企業にとって賢い戦略は、役所にいわれなくても先に贈与して、彼らに大きな貸しをつくることだ。ソフトバンクがウィルコムを救済するのも、NTTドコモが赤字覚悟でVHF帯のマルチメディア放送をやるのも、総務省への贈与である。
贈与は、アウトサイダーを排除するインセンティブにもなる。非公式の贈与は、相手が逃げた場合には立証不可能な密約なので、メンバーが固定されていないと機能しない。だからアウトサイダーにはわかりにくい暗黙の約束で互いを拘束し、相撲部屋のように新しいメンバーが参入できないようにすることが重要である。
この八百長ネットワークを破壊するには、オークションのような一度切りのゲームを導入して裏切りの利益を大きくする必要があるが、それがまさに官民ともにオークションを恐れる理由である。ソフトバンクも「中の人」になってしまった今では、役所や業界の自浄作用には期待できない。この構造は政治が変えるしかない。