週刊 東洋経済 増刊 デフレ完全解明 2011年 2/2号 [雑誌]週刊東洋経済の臨時増刊は「デフレ完全解明」。ところが中身を読んでみると、10人のエコノミストのうち「4%のインフレ目標」などと叫んでいるのは岩田規久男氏だけで、他の人々は「規制改革」や「産業構造の転換」あるいは「潜在成長率を高める」など、デフレそのものをほとんど問題にしていない。もうデフレ論争は終わったということだろう。

一般論としては、金融政策が効果をもつ局面はある。伊藤隆敏氏も指摘するように、90年代末の金融危機のとき、日銀が現在のFRBのようにアグレッシブな流動性供給を行なっていれば「デフレの罠」に陥ることを防ぐことができたかもしれない。さらにさかのぼれば、90年代前半の不良債権処理の失敗によって企業のバランスシートが毀損した状態が長期化したことも大きい。しかしこれは結果論で、今いってどうなるものでもない。

上野泰也氏もいうように「デフレの原因は実物経済の需給バランス」なので、実物経済を改善しないでデフレを直すことはできない。現在の標準的なマクロ理論によれば、デフレの罠の原因は自然利子率が低い(負になっている)ことであり、その原因は潜在成長率が低いことだから、潜在成長率がゼロに近いとき人々がデフレを予想するのは合理的なのだ。

「デフレ」といわれる現象のかなりの原因は新興国との競争による相対価格の低下だから、TPPよりもEPAで資本統合を進めることが重要だ。本社機能や高付加価値の事業を日本に残す一方、コモディタイズした製造業は新興国に移転して国際分業をはかる。古い企業は海外企業が買収して再生できるように対内直接投資を増やし、労働市場の調整機能を高めて人材の移動を促進することも重要だ。

こうした複雑で困難な改革に目を閉ざして、日銀が金をばらまけば景気がよくなるなどという幻想を振りまくのは、もはや犯罪的である。さらに厄介なのは、政府が問題の所在を認識せず、「労働者派遣法の改正など雇用や収入に不安を抱える非正規労働者の正社員化を進めます」などと真逆の方向に走っていることだ。多くの論者が指摘するように残された時間は少ないが、民主党政権では何もできないだろう。