きのうの安藤至大氏の一連のつぶやきについて、ややこしい話なのでツイッターでは書けなかった点を少し補足。
長期雇用契約を結ぶ際に,使用者側は水準以上の人を雇っているはずです。採用に関しては広範囲の自由が認められているからです。しかし,その中に大活躍する人やうまくいかない人がいることは避けられません。
だから長期契約を守るために窓際族を抱えることも必要だというのは一理ある。Shleifer-Summersは、敵対的企業買収は労働者に対する長期の「暗黙の契約」を破って彼らの企業への人的投資の成果を事後的に搾取することによって利益を上げるものだと論じた。

労働者は長期的に雇ってもらうことを前提にその会社でしか役に立たない企業特殊的技能を蓄積する。その技能が必要なくなっても経営者は解雇できないが、企業買収によって彼らを解雇すると企業の業績は上がる。これは「約束を破る」ことによって労働者の企業への投資を搾取するからだ。

このようなホールドアップが頻発すると、労働者は企業特殊的技能に投資しなくなり、生産性は低下する。終身雇用は、暗黙の契約を守ることによって労働者の人的資本への投資を促進するシステムと考えることができる。他方、それは企業特殊的技能が必要なくなってからも社内失業を抱えることによる非効率性をもたらす。

このメリットとデメリットのどっちが大きいかは、業務の性格に依存する。自動車のように部品の補完性が強くチームワークが重要な場合には、長期雇用によって労働者のコミットメントを強めることが重要だが、コンピュータのように工程がモジュール化されると、企業特殊的技能の重要性が低下するので、企業買収で約束を破ることが合理的になる。

だから自動車産業では今でも長期雇用が合理的なので、解雇規制を撤廃してもトヨタは正社員には終身雇用を保障するだろう。しかしすべての企業がそういう雇用慣行をとるのは非効率的である。特に情報産業ではソフトウェアとハードウェアの補完性はないので、たとえばアップルは工場をすべて売却してハードウェアはアジアで製造している。

「義理と人情」で窓際族の面倒をみる終身雇用という規範は、部品の組み合わせが複雑で漸進的な改良が頻繁に必要になる知識集約型の製造業では合理的だったが、そういう「すり合わせ」の優位はデジタル技術によって失われつつある。だから雇用契約の自由度を上げて契約を多様化すべきである。

これは政府が指導する必要はなく、現在の(法律および判例による)解雇制限を緩和すれば、雇用はおのずから多様化するだろう。だから安藤氏もいうように「整理解雇の要件は緩和というか合理化と明確化をすべきだ」というのが多くの労働経済学者の意見である。