今年の流行しなかった流行語大賞は「1に雇用、2に雇用、3に雇用」だろう。雇用問題が日本経済のコアだという首相の認識は正しいが、「雇用を増やせば経済がよくなる」という彼の話は逆である。雇用はGDPの従属変数であり、人口減少のもとでGDPを上げるには労働生産性を上げるしかない。

労働生産性は付加価値額/就業者数である(付加価値額はGDPから政府支出を除いたもの)。日本の成長率が低い最大の原因は、明らかにこの労働生産性が上がっていないことで、最近はほぼ一貫してG7諸国で最下位である。特に2008年の金融危機後の落ち込みが大きい。

klems

2007~9年の日米欧の労働生産性上昇率

上の図はハーバード大学のWorld KLEMS会議の資料から拾ってきたものだ。ここ3年で日米欧の賃金はいずれもやや上昇しているが、米の労働生産性がそれ以上に上昇したのに対して、日欧では生産性が上がらず、欧ではマイナスになっている。これは米で雇用が削減されたのに対して、労働市場の硬直的な日欧は社内失業を増やす「労働保持」で対応したためだ。その結果、日欧では単位労働コスト(賃金/労働生産性)が上昇した。

雇用調整を解雇で行なうか労働保持で行なうかは、良し悪しがある。需要の縮小が一時的なものであれば、社内失業で労働力をプールして景気がよくなったら使えばよいが、需要の低下が構造的なものだと、余剰人員を抱えて企業の業績が悪化する。つまり雇用調整助成金などで労働保持を奨励する民主党の政策は、現在の不況が一時的なもので、政府が支えていればそのうち回復するという仮説に(彼らが意識しているかどうかは別にして)もとづいているのだ。

残念ながら、彼らの楽観的な仮説は統計的に支持できない。日本の労働生産性上昇率は、この20年間ずっと主要国で最低であり、社内失業を抱えていると企業の業績が悪化するだけだ。特に単位労働コストは国際競争において重要で、これが上がると新興国との競争で不利になり、雇用の海外流出が増える。いったん空洞化が起こると、生産性の高い企業の雇用は日本に戻らず、国内には生産性の低い企業だけが残る逆淘汰が起こる。

だから雇用問題の本質は、ワーキングプアがかわいそうだとか非正社員を保護しろといったお涙ちょうだいの話ではなく、このまま不合理な雇用慣行を続けて労働生産性に見合わない高賃金を払い続けていると、企業も労働者も国際競争力を失って雇用が空洞化し、みんなが貧しくなるということなのだ。

ところが民主党の成長戦略にもマニフェストにも、労働生産性という言葉は一度も出てこない。だから民主党に政権をまかせているかぎり日本の衰退は止まらないが、この点は自民党も他の政党も同じだ。このまま問題を先送りしていると、本当に日本経済の余命は長くない。