創造的破壊の力―資本主義を改革する22世紀の国富論
今年4月に公表されたIMFの世界経済見通しによれば、2024年の一人当たり名目GDPは日本が3万3138ドル、韓国が3万4165ドルで、韓国が日本を抜く見通しである。この一つの要因は急激な円安だが、ここ10年の成長率をみても逆転されるのは時間の問題だった。

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日韓台の名目GDP(IMF)

Economist誌でも世界銀行のチーフエコノミストが、韓国を中所得国の罠から脱却した国として賞賛している。これは発展途上国がキャッチアップで一定の経済レベルに達した段階で、独占維持や既得権保護で成長が止まってしまう現象をいう。

本書では、日本をその罠にはまった国として論じている。日本と韓国は、ほぼ同じ時期に深刻な経済危機を経験した。1990年代に日本では不動産バブルの崩壊による不良債権の処理に10年以上かかり、その間に世界ナンバーワンだった製造業は日本から逃げ出してしまった。

他方、韓国は1997年のアジア通貨危機で金融危機になり、IMFの資金援助を受けた。韓国人が「IMF時代」と呼ぶこの時期に財閥が解体されて失業者が激増したが、財閥企業をクビになった若者が起業し、空前の創造的破壊が起こったのだ。

韓国の生まれ変わった「IMF時代」

韓国のキャッチアップは日本のまねで、日本の高度成長から20年近く遅れて始まった。1965年の日韓条約のころは世界の最貧国だった韓国は、その後、財閥(チェボル)を中心にして急成長を遂げた。政府は財閥と癒着してその利権を守り、1990年には財閥の売上げ合計はGDPの16%を占めた。

ところが1997年に始まったアジア通貨危機で財閥系の銀行が破綻し、IMFは総額580億ドルの資金援助をおこなった。その条件としてIMFは財政赤字の削減を求めるとともに、財閥の独占を解除し、海外からの直接投資の自由化を求めた。

その結果、ITベンチャーが激増し、財閥の独占していた金融などの部門にも新規参入が増え、海外からの投資は26%から55%に増えた。財閥の中でもサムスンは電機以外の部門を切り捨て、半導体に投資を集中して世界のトップメーカーになった。

同じ時期に日本でも山一証券の破綻をきっかけに金融危機が起こったが、日本は(よくも悪くも)韓国よりはるかに豊かだったので、銀行は債務超過だったが合併で乗り切り、政府が100兆円を投入して危機を乗り切った。

このとき小泉内閣が不良債権を強制的に清算させて10年以上にわたった不良債権問題は終わったが、金融以外の分野の改革はほとんど行なわれなかった。日本の不良債権の規模は韓国の10倍以上だったのでIMFの救済は不可能だったが、それを要請していれば、GHQのように日本経済が生まれ変わるきっかけになったかもしれない。