麻生元首相が「今こそ公共事業を」とぶち上げたそうだ。神戸新聞によれば、「マスコミが世論を誘導し、公共工事は悪というイメージを作り上げた。今こそ公共事業をどんどんやるべきだ。金を借りているのは国民ではなく国。満期になったら、政府の権限で金を刷って返せばいい。企業と国の借金は性質が違う」という。

これが「国債の価格と金利は絶対に反比例する」という上念某や「インフレになったら労働者の給料は上がって若者が就職できる」という三橋某の話なら笑い話ですむが、元首相が公然と財政インフレを主張するのは困ったものだ。

竹中平蔵氏が「余命3年」といったのは、政府の純債務が家計の純貯蓄をほぼ食いつぶすのが3~5年後だという意味だが、そうなっても麻生氏のいうように「政府の権限で金を刷って」インフレにすれば、デフォルトは避けられる。問題は、このときインフレがコントロールできるかどうかだ。

一部のリフレ派はできると信じているようだが、「もしフリ」でも書いたように、通常の資金需給で起こるインフレとは違い、財政破綻によるインフレを日銀がコントロールすることはできない。特に国債の未達で金利が上がった場合、日銀が国債を引き受けないと政府がデフォルトになるので、マイルドなインフレで止めることはできない。

迷走する民主党政権では財政危機は解決できないし、自民党にも麻生氏のようなのが多いので、「余命」のあとは何が起こるかわからない。たぶん70年代に起こったように、少なくとも5年で2倍ぐらいの「狂乱物価」になり、債券安・株安・円安のトリプル安になるという竹中氏の予想が当たると思う。さらに国債価格の暴落で邦銀が莫大な損失を出すので、金融危機も起こるだろう。

しかし、これによって日本経済のかなりの問題が解決する。何より政府の実質債務が軽減されて財政危機が解決し、円安で輸出企業が競争力を取り戻す。年金の実質支給額も大幅に目減りして、現役世代の負担が減る。企業の実質債務が減って実質賃金も下がるので、中小企業の経営は楽になるだろう。

問題は、国民の金融資産が大幅に減価することだけだ。70年代には実際に家計資産は半減したが、大した問題にはならなかった。それどころか、この時期に貯蓄率は上がったのだ(!)。名目賃金は徐々に引き上げられるので、大インフレは結果的には老人の年金と貯金を狙い撃ちにする政策である。これが「若肉老食」を打破するウルトラCかもしれない。麻生氏がそこまで計算しているとすれば、自民党も大したものだ。