ネットテレビの衝撃 ―20XX年のコンテンツビジネスhuluという動画サイトを見たことがあるだろうか。日本からは動画は見られないが、アメリカではABC、NBC、FOXのテレビ番組がオンデマンドで見られる。ネットワーク局がYouTubeに対抗するサービスとして2008年にスタートし、今では放送された番組がすべて無料で(PCモニターで)見られる。昨年の売り上げは1億ドルで、今年6月からは有料サービスも始めた。本書は、こうした海外の動きを含めて、テレビをめぐるネット業界の状況を紹介したものだ。

日米のテレビの最大の違いは、アメリカではテレビ番組もオンデマンドで見るのが当たり前になったことだ。ケーブルテレビも、主力はVOD(video on demand)に移行している。GoogleTVも、こうした流れの延長上で出てきたものだ。グーグルのいうように「全世界でPCは10億台、携帯は20億台だが、テレビは40億台ある。テレビが最後の、そして最大のフロンティア」なのだ。

ところが日本では、まねきTVのようにユーザーの録画機を預かって録画を代行するサービスをNHKと民放キー局が訴え、最高裁まで争っている。二審の知財高裁では被告(まねきTV)が勝ったので、これでようやく日本でもVODサービスが始まるかと思ったら、最高裁は審理のやり直しを決め、被告が敗訴する見通しが強まってきた。こんな国で、GoogleTVが実現するはずもない。

欧州でも、無料で見られるBBCのiPlayerは月間1500万回再生されるが、有料のNHKオンデマンドは40万回だ。家電メーカー6社が共同でつくった「アクトビラ」は、3年たっても200万台しか普及していない。理由は簡単である。肝心のテレビ番組が、オンデマンド配信できないからだ。インターネットを恐れる地方民放がキー局のネット配信をやめさせ、民放連が「民業圧迫」を理由にNHKのオンデマンド配信を規制させる既得権保護カルテルが、日本の映像産業を窒息させている。

本書も指摘しているように、全米ブローバンド計画でFCCが「テレビ局の周波数を120MHz削減する」という方針を打ち出したのは、もう産業として終わったテレビ局を切り捨て、モバイル・ブロードバンドに電波を配分する戦略転換だ。ところが日本では、オンデマンド化する世界の流れに逆行して、ホワイトスペースにワンセグを入れようとしている。総務省は「光の道」に力を入れる前に、そこに流れる映像コンテンツをどう供給するのか、考えたほうがいいのではないか。