きのう情報通信政策フォーラムのシンポジウムで「情報通信の競争力」について話して、技術屋さんの悩みに共通点があることがわかった。日本の技術力は(最近はちょっと落ちているとはいえ)絶対的な水準はまだまだ高いのに、世界市場では韓国や台湾にも勝てない。なぜ技術力がビジネスの競争力に結びつかないのかという話だった。

このパズルは、イノベーションの本質を考えれば解ける。前にも書いたように、セイの分類でいえば、日本には勤勉な「労働者」と優秀な「科学者」はたくさんいるが、リスクを取る「起業家」がいないのだ。こういうとき、技術開発にいくら補助金を出しても役に立たない。複数の生産要素でアウトプットを出そうとするとき、必要なのは個別の生産量を最大化するのではなく、まず全体最適を考えて資源を戦略的に配分することだ。そのために大事なのは得意分野を伸ばすことではなく、ボトルネックをなくすことである。

これは鳩山前首相の専門分野だった数理計画法の基本的な考え方だ。前の戦争では、米軍は作戦研究(OR)を使ってバランスのとれた補給を行ない、犠牲を最小限に抑えた。ORは軍事機密とされ、原爆よりも大きな戦略的価値があったといわれている。他方、日本軍は補給を考えないで戦艦大和のような武器ばかりに資源を集中したため、兵站がボトルネックになって戦死者300万人の半分が餓死という悲惨な結果になった。

経済政策でも同じである。みんなの党の出そうとしている「デフレ脱却法案」は、ゼロ金利でジャブジャブに余っている金をさらに日銀に出させようというものだ。先日、みんなの党の国会議員に「これ以上マネーを増やして何が起こるのか?」と質問したら「何も起こらない。足りないのは投資だから」と答えたので驚いた。「ではなぜインフレ目標で騒いでいるのか?」ときいたら「潜在成長率とか生産性とかいっても政治家にはわからない。金を出せばインフレになるといえば誰でもわかるから」という。

このように解きやすい問題から解くのが、日本人の通弊である。みんなのコンセンサスで進めるので、トップダウンの戦略的な意思決定ができないのだ。情報通信の分野でも「光の道」などのインフラ投資にばかり金を出そうとするが、光ファイバーは90%の世帯に敷設可能なのに30%しか引いていない。ボトルネックはインフラではなく、サービス需要なのだ。それを増やすために必要なのは補助金ではなく、規制改革による競争促進である。